42湯目 大山環状道路と城崎温泉

 翌朝。

「うー。頭痛え……」

 完全に二日酔いの状態で、分杭先生はレストランに姿を現した。


「大丈夫ですか、分杭先生。昨日、うなされてたようですが」

 実は部屋まで同室だった、のどかちゃんが気遣うが、先生は、


「ああ。少し休んでから車に乗るわ。お前らだけ、先に行け」

 と、死にそうな顔で言うものだから、早くもプランが狂っていた。


 仕方がないので、一旦、朝食後に9時で宿をチェックアウトし、分杭先生だけは近くの道の駅で休むことになった。


 その分、のどかちゃんだけ美来ちゃんの後ろに乗って、タンデムで出発。地味に、彼女はハーフヘルメットだけを持参してきていたのが助かった。


 まずは大山環状道路を目指す。


 そして、この「大山環状道路」が素晴らしかった。

 ホテルから片道1時間ほどで行けるが、道中、田舎ゆえに交通量が圧倒的に少ない。


 つまり、「走り放題」の状態。

 バイク乗りにとって、この「交通量が少ない」というのは、実に貴重で、普段、街中で走っていると、交通量と信号機によって、大幅に制限されてしまう。


 その「制限」というか「かせ」がない状態になると、バイク乗りも、そして車乗りも、大幅に「テンションが上がる」状態になる。


 実際、

「めっちゃ飛ばしてるなあ」

 先頭を行くまどか先輩を一気に抜いて、先頭に立った花音ちゃん、次いでフィオ、そして美来ちゃんがかっ飛ばしていた。


 ようやく着いた大山環状道路。

 鳥取県を代表する大山を囲むように伸びる環状道路で、どこからでも大山を眺めることが出来、信号機もほとんどない、一本道で、まるで北海道のような風景が広がる。


 周りには、わずかな人家や牧場しかないのだ。


 実に走りやすい道で、私自身、久しぶりにこんな気持ちいい道をバイクで走っていた。


 展望台で記念撮影をして、分杭先生が待つ、道の駅へ向かった時には、すでに11時を回っていた。


「よし、復活!」

 分杭先生は、道の駅で酔い覚ましに「しじみの味噌汁」を飲んだらしい。見事に復活していた。


 そこから城崎温泉までは、下道でも2時間程度だった。


 そして到着した城崎温泉は、歴史と情緒を感じさせるような、古い温泉街だった。

 そこに宿を取っていた私たちは、早速宿に向かうところだったが。


 まだチェックインまで時間があるのと、せっかくなので、色々と日帰り温泉を巡りたいという私の要望を聞いてくれた先輩たちによって、日帰り温泉に行くことになった。


「ここ城崎には、7つの湯ってのがあるらしいわ」

「7つの湯ですか?」


「ええ。主旨が異なる温泉が7つもあるらしいの。『城崎の外湯巡り』って言ってね。一の湯、御所の湯、まんだら湯、さとの湯、柳湯、地蔵湯、鴻の湯の七湯らしいわ」

「さすが琴葉先輩。関西人でもないのに、めっちゃ詳しいっすね」

 琴葉先輩の豊富な知識量、というか知識欲に、美来ちゃんも感心していた。


「まさに温泉の宝庫ですね。でも、さすがに7回も入るのは大変そうですね」

「まあ、そうね。しかも今は昔と違って、それぞれの温泉に入るのに、いちいちお金がかかるのよ。全部入ってたら、お金がなくなるわね」

 妙に現実的なことを言う琴葉先輩だったが、実際、学生の私たちには余裕がない。


 とりあえず、案内パンフレットをもらって、考えた。

 私の提案で、一つの温泉が選ばれることになる。


 それは、「一の湯」だった。

 理由は簡単だ。


 ここの効能というか、コンセプトに「合格祈願・交通安全、開運招福の湯」と書いてあったからだ。


 もう受験は終わったが、元受験生として、そしてバイク乗りとして「交通安全」という縁起を担ぐためだ。


 バイク乗りは、変な縁起を担いだり、ジンクスを気にしたりするものだ、とまどか先輩に聞いたことがあったが、その通りの結果になった。


 私たちは「一の湯」に向かうことになった。

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