26湯目 金の湯、銀の湯
結局、私とのどかちゃんが、有馬温泉に着いた時には、ちょうどこの時期の日の入り時刻に当たる18時30分頃だった。
正味、14時間半の時間がかかったことになる。ちなみに、花音ちゃん・美来ちゃんペアはそれより1時間も速い17時半に到着していたそうだった。
「遅いですよ」
「待ってましたよ」
二人に促され、まずは軽く温泉を回ることになる。
有馬温泉は、枕草子にも登場するという、歴史ある古い温泉で、六甲山地の北側、紅葉谷の麓の
温泉街をそぞろ歩きすると、風情のある古い瓦屋根の住宅や土産屋、温泉宿、高級ホテルなどが坂道に沿って建ち並び、なかなか風情がある。
そのことを美来ちゃんに話すと、
「有馬には、金泉、銀泉ってのがありましてね。せっかくやし、どっちも入りましょう」
と返答してきたが、実は今日の宿は、到着が遅れることを見越して、21時頃にチェックインする、と言ってあった。
なので、まだまだ時間があったので、関西に詳しい美来ちゃんの案内で、日帰り温泉に入ることになった。
まずは、金泉、金の湯だ。
こちらは、ある意味、わかりやすかった。
茶褐色に濁っていた。
全員で、内湯に浸かりながら、私が以下のような感想を述べると。
「これはナトリウム系の塩化物泉だね。塩分濃度が高いから、湯冷めしにくいし、恐らく冷え性とかに効きそう」
「さすが先輩。温泉博士みたいっすね」
かつて、私が先輩の琴葉先輩に思ったのと同じことを、今度は後輩の美来ちゃんに言われていた。
それだけ私も温泉に入りまくって、経験値を積んだからだろうが、説明を見なくても大体予想が出来るようにはなってきていた。
「気持ちいいですねー。眠くなりますー」
と言って、早くも目を閉じて、頭の半分くらいまでお湯に浸かって、今にも沈みそうなのどかちゃんを、美来ちゃんが、
「のどか! 寝たらあかん!」
と笑いながら制していた。
「それにしても、相変わらず瑠美先輩は遅いです」
花音ちゃんは、相変わらず不服そうに呟いては、私の方を見ていたが。
「まあまあ。急ぐだけが旅の目的じゃないから。それに急いで行くのももったいないし」
「まあ、確かにそうなんですが」
「でも、さすがに疲れたな。14時間半は長いよ。行きはいいけど、帰り道が大変そう」
「ですねー」
私と花音ちゃんが会話していると。
「すみませんね、先輩方。もうすぐウチものどかも免許取れる予定やさかい、勘弁したって下さい。こんなしんどいのは今回で最後ですから」
美来ちゃんの言葉に真っ先に反応したのは、花音ちゃんだった。
「いつ? いつ取れそう?」
「そうですねー。9月中には」
やっと水面から上がってきて起きてきた、という感じののどかちゃんがのんびり口に出す。
「来月か。のどかは、ちゃんと取れそう?」
「大丈夫ですー、多分」
花音ちゃんの質問に、対する答えがすでに不安を誘っている気がする、のどかちゃんの答え。
私がそう思っていると、
「心配あらへんです。ウチが、死ぬ気でのどかを鍛えます! 何としても免許取らせたります!」
やたらと気合が入った声で吠える美来ちゃんに、私と花音ちゃんは顔を見合わせて笑うのだった。
その後、湯上りに少し休んでから、今度は銀の湯、銀泉に行ってみた。
こちらは、金の湯のように濁ってはいないが、無色透明でサラサラと柔らかな肌触りの泉質だった。
「こっちは、多分、ラドン系かな。血行促進とかによさそう」
私の感想に、やはりすばやく反応したのは、美来ちゃんだった。
「さすがっすね。その通りっす。正確にはラドン、つまり放射能泉を含んだものと、二酸化炭素泉に分かれるそうっす」
「放射能泉? 何、それ。危なくないの?」
怪訝な表情を浮かべる花音ちゃんだったが、
「心配いらんすよ。放射能って言うても、微量です。まあ、この放射能泉が有害や言う意見もあるらしいんすけどね」
美来ちゃんが見事に返答していた。
彼女は彼女で、それなりに温泉の知識があるように思えるような回答だった。
何しろ、この放射能泉に関しては、私もあまり知識がないのだ。
ラドン温泉と言われる温泉には、この放射能泉が多いが、実は日本全体では放射能泉は、たったの8%しかないと言われている。
中でも最も含有量を含んでいるのが、山梨県の
「新陳代謝が高まるんで、健康促進、食欲増進に繋がるっちゅう意見もあるそうっす」
美来ちゃんの解説により、とりあえず私たちは安堵し、この貴重な温泉を楽しむことにした。
湯上りに、また温泉街をぶらぶらと歩き、その後で、ようやく私たちはバイクを取りに戻り、その日の宿に向かう。
宿に着いた時には、すでに21時を回っていたが、夏の夜は涼しい。
道中の濃尾平野から近畿圏にかけては、それこそ「うだる」ような蒸し暑さが続いていたが、この有馬は、少し標高が高いこともあり、また山に囲まれている自然の景勝地ということもあり、夏の夜にしては、思っていたより過ごしやすかった。
私たちは、宿で遅い夕食を食べ、その後、さすがに長時間走りっぱなしの私が真っ先に眠ってしまったので、残る3人も自然と早く床に着いていた。
夜は更け、そして翌朝になる。
往路が終わり、帰路になる。
この帰路がまた大変な道のりだった。
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