17湯目 初めて見る風景

 そうして、順調に出発となった。


 実際、その日は土曜日で、高速道路上にはそこそこ交通量があったのだが。そもそも高速道路自体が、他の国はわからないが、日本に限って言えば、基本的に「暇だ」というくらいに「つまらない」一本道だ。


 ひたすら真っ直ぐに伸びており、道幅は広いし、注意すべき点と言えば、せいぜいSAやPAから本線への合流時、そして追い越し時だけだ。


 ましてや、バイクというのは、一般的には車より「加速性能がいい」のが大半だから、車やトラックのように、合流時に戸惑うこと自体が少ない。


 小回りが利いて、いざとなればすぐに「逃げやすい」のもバイクのメリットでもある。


 ただ、その反面、デメリットとして「雨」と「風」には弱いが。


 幸い、この日は朝から晴れていて、風も穏やかだったので、私たちの旅は順調だった。


 その代わり、猛烈な真夏の暑さが襲いかかってきたのだが。


 その暑さは、山間部の山梨県から長野県を越え、中央高速道路を使って、岐阜県まで「降りて」くると、一層、強さを増した。


 高速道路を走っている時はまだしも、一度でもSAやPAで停まると、全身から汗が噴き出してくるくらいの、強烈な「猛暑」だった。


 何度目かの休憩を挟んで、出発から、約5時間。


 名神高速道路、大津SA、に到着した。


 そこで、適当に昼飯を食べる。ちょうど、昼時で、土曜日でもあったからSA内のフードコートは混んでいたが、何とか席を分散して、私たちは食事にありつく。


 そして、食後、展望デッキに登って、私は初めての景色を目撃する。


「おお! 久々に戻ってきた、っちゅう感じや!」

 目の前に広がる、海のように広大な琵琶湖を眺めながら、美来ちゃんが叫ぶように笑顔で言葉を発した。


「へえ。これが琵琶湖かあ。本当に海みたいだねえ」

「瑠美先輩。琵琶湖は初めてっすか?」


「そうね。それどころか、関西もほとんど来たことない」

 私の記憶では、ちょうど去年の夏休みに、先輩たちと和歌山県の温泉に行った時以来だろう。


「ほんなら案内しますよ」

 と、言った彼女が、


「って、言うても今回は、小豆島が目的でしたね」

 すぐに否定し、舌を出したのが何だか可愛らしく見えてしまう。


「琵琶湖、霞ヶ浦、サロマ湖ですねー」

 こっちは、こっちである意味、「不思議ちゃん」なところがある、のどかちゃんが呟いていた。


「何、それ?」

「日本の湖の大きさランキングですよ」


「そうなの。知らなかった」

 琵琶湖はともかく、それ以外、特に「サロマ湖」はマニアックだな、と思いながら、私は初めて琵琶湖を眺め、写真に収めていた。


 その後、出発したが。

(わかりにくい)

 その大津SAからは、いわゆる本格的な「関西」の中心地に入る。


 名神、京都縦貫道、中国道、大阪環状線などなど。

 馴染みのない道路、地名、そして地図。ナビに使用している地図アプリがないと、自分がどこにいるのかすらわからない道で、おまけに道幅が狭くて複雑で、その上、トラックをはじめ、交通量が多い。


 正直、この旅で一番神経を使ったのが、この区間だった。


 途中、土日特有の渋滞、混雑に巻き込まれながらも、何とか抜け出し、神戸市に入り、道路標識に「淡路島」、「徳島」、「高松」などの地名が見えてくる。


 午後。いよいよその橋を渡る。


「デカっ!」

 思わず私は声を上げていた。


 巨大な吊橋の、白い鉄骨と、支えとなるワイヤーが伸びる、片側3車線もある大きな橋、明石海峡大橋だ。


 そこを渡りきると、初めての「淡路島」となる。


 本当なら、時間があれば、この淡路島をのんびりツーリングでもしたいところだったが、目的地が小豆島の私たちは、ここを一気に駆け抜ける。


 淡路島自体は、結構大きな島だが、途中、のどかな田園風景が広がり、小さな町が点在する、穏やかな島に見えるのだった。


 やがて、「大鳴門橋」と呼ばれる、これまた明石海峡大橋にも劣らない大きな橋を渡る。


 こちらは、明石海峡大橋とは違い、片側2車線だが、ワイヤーよりも大きなパイプのような構造物が目立つ。


 そして、ついに「徳島県」に上陸することになった。


 私にとって、人生初の「四国」上陸だった。


 上陸後は、案内標識とナビに従い、「高松」の文字を目指して、高松自動車道に入る。


 後は、目的地まで真っ直ぐだ。


 何度目かの休憩を挟み、ついに目的地に近い、中継地点、高松港に到着した時には、出発から、9時間後。午後4時に達しようとしていた。


 高松港からは、フェリーを使って、小豆島に渡ることになる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る