18湯目 小豆島上陸
ようやく高松港に到着した頃には、16時を回っていたが、真夏の日は長い。
まだ日は沈む気配がなく、それどころか、朝から続く猛烈な太陽光の眩しさと熱気に包まれていた。
この時期の高松の日の入り時刻は19時頃。まだまだ明るく、そして強烈な暑さに晒される。
私たちは、フェリーターミナルで乗船手続きをする。
幸い、フェリー自体は1時間に1本程度のペースで、夜の8時頃まで出ているようで、すぐに乗船手続きを終える。
その後は、あまりの暑さにフェリーターミナルの建物の中に入り、アイスクリームを買って、待合室のベンチで食べることになった。
「いやあ。それにしても暑いなあ」
持参した、まるで江戸時代の商人が使うような、年代物の扇をパタパタさせながらまどか先輩が呟く。
「本当だネ。ウンザリする暑さだヨ」
フィオもまた、団扇で自らを仰いでいた。
私は、去年の同じ時期に、和歌山県にツーリングに行く途中、愛知県で熱中症になりかけたことを思い出しながら、アイスクリームを食べ、さらにペットボトルからスポーツドリンクを飲んでいた。
「まあ、関東よりは暑いっすよねえ」
と言いながらも、関西出身の美来ちゃんは慣れているようで、大して暑そうには見えなかった。
「確かに暑いですけど、わたくしは寒い方が苦手ですー」
のどかちゃんもまた、あまり暑さには参っているようには見えないのが、どこか不思議な感覚を覚えた。
そして、フェリーの到着時間になり、私たちはそれぞれのバイクを船に乗り入れる。
ちょうど、去年の夏休みに、伊勢湾フェリーに乗った時以来だが、この「バイクで船に乗る」という感覚が、不思議で、かつとても面白い物だという認識というか、感覚が私の中では甦ってきた。
乗船して、階段を上って、客室に向かうが。
その日は、晴れていて暑かったこともあり、私たちは客室ではなく、外が見渡せる展望デッキのようになっている部分へ出て、そのままベンチに座った。
まもなく就航となるが、ゆっくりと港を出て、徐々にスピードを上げていき、潮風を浴びながら海上を進む様子に、私は彼女たちと共に舷側に行き、景色を眺めながら、時を過ごした。
船の館内放送が流れる。
今から小豆島の
美来ちゃんが、軽く説明してくれるのだった。
「小豆島は、確か『オリーブの島』とか言われる、瀬戸内海の島でして。この時期は確かに暑いと思いますけど、ホンマに綺麗な島で、観光がメインの島っすよ」
「どんなところが観光名所なの?」
「そうっすね。エンジェルロード、
その口ぶりだと、やはり彼女自身は行ったことがないらしいが、関西出身として、それなりの知識はあるようだった。
「楽しみですねー」
相変わらず、のんびりしているのどかちゃんは、ニコニコしているが。
彼女、で思い出した。
「のどかちゃん。誕生日過ぎたけど、免許はまだなんでしょ?」
そうだった。
のどかちゃんの誕生日は、7月10日。とっくに過ぎている。にも関わらず彼女が免許を取ったという情報は聞いてなかったからだ。
「そうですねー。今、まだ卒検前の見極めで、つまずいてましてー」
のんびりしていて、相変わらず緊張感のない声で、彼女は答える。ある意味、「癒し系」なのだが、どうもマイペースというか、計画性がないようにも見えるから心配ではある。
「見極め? そんなんでつまずくの?」
と聞いたら、彼女の代わりに、一緒に自動車学校に通っているという、美来ちゃんがすかさず答えてくれた。
「聞いて下さいよ、瑠美先輩。この子、トロいさかい、見極め中に、立ちゴケして、3回も失敗しとるんすよ」
「3回? バイクに乗る資格ないんじゃない?」
こっちはこっちで、物凄く辛辣なコメントを投げかけて来たのは、もちろん花音ちゃんだった。彼女は、元々、どうにもシニカルなところがある。
「そうかもしれませんねー。でも、わたくしは常に安全を心掛けておりますのでー」
しかし、そう言われた本人が、どこか他人事というか、まったく気にしてない風なのが面白い。
「立ちゴケなんて、したことない私にはよくわからいけどね」
などと、自慢げに言う花音ちゃんも花音ちゃんだが。
「そっか。まあ、最悪、免許取得期限までに取ればいいけど、出来れば美来ちゃんより早く取って欲しいな」
と、私が危惧したのは、「免許」には、取得期限があり、あまりのんびりしていると、その取得期限を迎えてしまうからだ。
確か、その場合は、今まで受けた講義自体が無駄になり、また一からやり直しになる。
おまけにこのままだと9月2日が誕生日の、美来ちゃんにも追い抜かれるだろう。
その美来ちゃんにも聞いてみたら。
「ああ。ウチは余裕っすよ。誕生日まであと1か月あるんすけど、余裕やさかい、時間調整してます」
こっちはこっちで、運動神経が抜群なのが影響してるのか、それともバランス感覚が絶妙なのか、あっという間に課題をクリアして、もういつでも卒業できるような状態だという。
極端な二人だった。
フェリー内では、中途半端な時間にも関わらず、美来ちゃんだけが船内で売っている「讃岐うどん」を美味しそうに食べていた。
フェリーは1時間の旅を終えようとしていた。
次第に山の稜線が海上の向こうに見えてきた。
深い緑に包まれた、小豆島は「美しかった」。
車道を通る車の数も少なく、まさに「離島」の様子を呈しているように見えるが。
上陸後の、その島は、意外なくらいに「大きい」島だった。
私たちは、ホテルに向かうが、その前に美来ちゃんが提案してくれた。
「ちょうどええので、エンジェルロードに行きましょう」
彼女の先導で、向かった場所、エンジェルロード。そこは「天使の道」に相応しい、小豆島の奇跡が見られる場所だった。
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