5湯目 つながる思い

 彼女たちが、果たして温泉ツーリング同好会に入ってくれるかどうか、わからない。


 無理に勧誘しなかったことで、私自身は、花音ちゃんから、

「何でちゃんと勧誘しないんですか? あんなの、ちょっと騙して入れてやればこっちの物でしょう」

 と不満たらたらに、言われていたが、


「それじゃ、ダメ。本当に好きになってもらわないと意味がない」

 というのが、私の中では一貫した意見だった。


 なので、それからしばらくは待ったが。


「ダメですね。瑠美先輩が甘々だから、来ないじゃないですか」

 数日経っても、彼女たちは部室には来なかった。


 そうこうしているうちに、約束の5月末が迫ってきた。


 残り数日になったある日。

 沈んだ気持ちで、私が放課後に部室に行ってみると。


「あ、先輩。ちわっす」

「お邪魔しております」


 なんと、驚くべきことに、彼女たちが部室にいた。

 野麦美来と安房のどか。間違いなく、あの時、バイクに乗せた二人だった。一方で、応対していたのか、先に来ていた花音ちゃんは、嫌そうな顔をしていたが。


「こんにちは。どうしたの、二人して」

 一応、聞いてみると。


「ウチら。色々話し合ったんですけど、ここに入りたいな、って思いまして」

 野麦さんの口から出た言葉こそが、私が求めていた答えだ。


 私は、喜びのあまり、二人に抱き着いて、

「ありがとう!」

 と言っていたから、さすがに二人はもちろん、花音ちゃんまで、私の大胆な行動に驚いて、目を丸くしていた。


「そんな大袈裟ですね、先輩」

「はい。でも、嬉しいですー」

 相変わらずの二人を座らせ、まずは入部の手続きをして、ホワイトボードに同好会の基本的な活動内容を記載していく。


 およそ2年前。私が琴葉先輩に受けたのとまったく同じ構図だったが、今は私が説明する立場になっていた。


「じゃあ、何か質問はある?」

 一通り、説明した後に尋ねると。


「はい。ウチらバイクの免許持ってへん、というか年齢的にまだ取れへんのですけど、どないしたらいいですか?」

 野麦さんが明るい表情を向けてくる。好奇心旺盛な子だった。


「そうね。とりあえず二人は電車で行くか、私たちのバイクの後ろに乗るか、ね。免許が取れる年齢になったら取ればいいけど、別に強制はしない」

 と言ったら、隣で見ていた花音ちゃんが露骨に嫌そうな顔をしていた。どうも彼女はタンデムで後ろに人を乗せるのが嫌いなようだ。


「わかりやした」

 明るく頷く彼女と入れ替わり、手を挙げたのは安房さんだ。


「お金とか、レポートとかはどうするのでしょうか?」

「お金は、交通費として部費で計上するわ。レポートは月1ペースで山梨大学の正丸先生に提出」

 わかりやすく説明すると、彼女もまた頷いた。


「じゃあ、野麦さんに安房さん。よろしくね」

 他に質問がないようなので、締めようとしたら、


「そんな『さん付け』やなくて、下の名前でええですよ。ウチら1年ですし。なあ、のどか」

「そうですねー」

 野麦さんに提案され、隣の安房さんは、のんびりとした口調で首肯していた。


「わかったわ。じゃあ、美来ちゃんにのどかちゃん。これからよろしくね」

「はい。よろしくです!」

「よろしくお願い致しますー」


 こうして、私たちの温泉ツーリング同好会に新たなメンバーが一気に2人も加わり、私はすぐに分杭先生に連絡をしていた。


 だが、問題は山積みだ。


 まず、誕生日を迎えていない彼女たちは、まだバイクに「乗れない」、運転が出来ないのだ。


 温泉に行くにしても、私と花音ちゃんだけが先行してバイクで行って、彼女たちには電車で来てもらうか、あるいはそれぞれのバイクでタンデムして行くしかない。


 つまり、1年目、2年目とはまったく違った問題が発生していた。


(まあ、何とかなるでしょ)

 私も、ある程度、バイクに乗ってきたから、そんな考え方が染みついてきていた。


 バイクにトラブルは付き物だ。つまり、先のことをあれこれ考えても仕方がないし、なるようになる。くらいの心の持ち方に、バイク乗りは自然となってくる。


 いい意味でも、悪い意味でも、バイク乗りは楽観的なのだ。

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