24湯目 無理ゲーツーリング

 私が内心「無理ゲー」と思ったのは、12時間半という「長大な」時間に起因するからだった。


 バイクの旅というのは、車や電車、バスの旅とはまるで違うのだ。


 車は、四角くて、丈夫な鉄の塊に覆われており、冷暖房も完備しているし、もちろん電車やバスは自分で操縦する必要がないから、寝てても目的地に着く。


 それに対して、バイクだけは、この「行程」自体が非常に重要になる。


 この世界に無数に存在する、どのような種類の、どのようなバイクに乗ったとしても、絶対に「変わらない真理」は、自らが操縦する必要があることだ。

 自動運転は車の世界では浸透しつつあるが、バイクにおいては、はるかに遅れている。


 そもそもバイクとい乗り物は、常に剥き出しの状態で、スピードを出し、天候や気温、風に大きく左右され、その分、疲労蓄積度が車や電車、バスとは比較にならないほど高い。


 つまり、その分、頻繁な休憩を必要とするし、休憩を挟む分だけ、実は車やバスより遅く着く可能性すらある。


 バイクはスピードが出るし、すり抜けが出来るから、速く目的地に着くと思われがちだが、実はこうした理由から、意外なほど、「遅い」乗り物でもある。


 それが、12時間半もかかる旅だというのだ。


(一体、何回休憩を取ればいいんだ)

 と、絶望感にすら包まれるし、操縦者ではなく、言い方は悪いが、「単なる荷物」となる美来ちゃんや、のどかちゃんは気楽なものだとすら、私は思った。


 当日の割り振りは、下呂温泉に行った時とは逆になった。


 つまり、私とのどかちゃん、花音ちゃんと美来ちゃんというペアになる。

 常々、レーサーの美来ちゃんに懐いていた、というか妙な憧れを持っているように見えた美来ちゃんは大喜びだったが、花音ちゃんは複雑そうな表情だった。


「では、よろしくお願いしますー」

 そして、のどかちゃんは相変わらずだった。


 マイペースで、のんびりしてて、名前の通り、「のどかな」気質を感じる。


 ところが、出発してみてすぐに、

「瑠美先輩。遅いですねー」

 最初の休憩ポイントで、笑顔のまま、辛辣に突っ込まれていた。


 この子は、この子で、おとなしそうに見えて、はっきり言うところがある子だった。


 そして、花音ちゃんと美来ちゃんのペアに関しては。

 すでに引き離されて、先に進み、途中でグループLINEで「どこそこに着きました」と報告が来たが、そのルートが意外なくらいに、変わったルートだった。


 通常、山梨県の甲州市から、下道だけで有馬温泉に行く場合、国道20号、19号と抜けて、名古屋の北から三重県に入り、四日市、鈴鹿、亀山を経由し、いわゆる名阪国道(国道25号)から伊賀経由で進むのが一般的なのだが。


 彼女たちが示したルートは、国道19号の途中から、木曽の山中を突破し、白川町から国道21号を経由。木曽川沿いに南下し、滋賀県の甲賀こうか経由で、進むというもので、こちらの方が若干だが、速いという。


 仕方がないので、私も彼女たちが示したルートに従って、走ることになった。


 しかし、これが想像以上に「苦行」だった。


 何しろ遠い。


 バイクにおいて、本来1日に走る適正距離は、おおむねだが300キロ前後、場合によっては200~300キロと言われている。

 特に慣れていないライダーなら200キロ前後でも珍しくない。


 ところが、美来ちゃんは、1日で500キロ、それも下道だけで行くというのだから。


 いくら、ある程度バイクの運転に慣れてきた私といえども、この距離感は体力的にきつかったのだ。


 ましてや、琴葉先輩が乗るVストロームのように、長距離走行が得意なバイクではない。


 走っては休み、また走っては休みを繰り返し、すっかり疲れてしまった。


 もっとも、幸いだったのは、木曽の山中の道が、思っていたより荒れていることがなく、また交通量が少なかったので、快適に走れたことだった。


 だが、そこから岐阜県に入り、国道21号に入ると、交通量が増えるし、京都・大阪という関西の巨大都市圏に入ると、流れが悪くなる。


 結局、ヘロヘロになりながら、日没を迎える頃。


 私とのどかちゃんは、とある休憩ポイントというか、コンビニの駐車場にいた。


 場所は、大阪府枚方ひらかた市。


 思えば遠くに来たものだが、それでも高速を使って旅が出来た、この間の小豆島に行った時よりも、距離的には短い。


 そこで、私はのどかちゃんの意外な一面を見ることになるのだった。

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