13湯目 下呂温泉の謎
遅い朝食を食べた私たちは、再びタンデムをしながら、岐阜県を目指す。
そこからは主要国道の国道19号を南下し、途中で右折し、木曽川を渡って、国道256、257号を真っ直ぐ進むが。
「うわっ。めっちゃ気持ちいい道ですねー」
後ろの美来ちゃんが、全身で喜びを表現するように、大きな声で叫んでいた。
実際、この道は、長野県と岐阜県を結ぶ主要国道で、常に輸送トラックが行き交う国道19号に比べて、交通量が少なく、信号機も少ない山道が中心なので、快適な道になっていた。
この頃になると、すっかりタンデムに慣れてきた、美来ちゃんがカーブで上手に体を傾けるようになり、運転者の私としても楽だった。
タンデムでこんな長距離運転は初めてだった(後ろに乗ったのはフィオの運転であったが)こともあり、若干の不安が私にはあったが、運動神経が良く、飲み込みが早い彼女のお陰で、順調に、かつ安全に進むことが出来た。
岐阜県に入り、山道は変化していく。
周囲に山が見えたかと思えば、田園風景、さらに住宅街と目まぐるしく変わる。
だが、幸いにも天候には恵まれ、雨は降らなかったため、快適なツーリングが続いた。
約1時間50分後。
下呂温泉の看板が見えてきた。
私たちは、ようやく目指す下呂温泉の、日帰り温泉に着いていた。
そこは、ちょっとした和風の切妻屋根が特徴的な温泉施設で、「露天風呂」の文字が入った幟が多数掲げられていた。
どうやらここは、露天風呂が売りのようだ。
この場所を選らんだのは、ほんの偶然というか、道中の道の駅の休憩時に、のどかちゃんが「ここに行ってみたいです」と珍しく自己主張したので、それに応じたものだった。
「なんや、やたら露天風呂、推してますね」
などと、美来ちゃんも口にしていたが。
実際、中に入って、脱衣所から浴室に入ると。
露天風呂しかなかった。
つまり、「内湯」という物自体がない。
ただ、東屋があり、6種類もの温泉があり、さらに目の前には、下呂温泉を分ける、飛騨川が見え、せせらぎを聞きながら、入浴できる。
「ここ、いいね」
私が思わず、彼女に向かって言うと、
「ありがとうございます。何となく気になりました」
発起人でもあるのどかちゃんが、ふんわりと笑った。
「なかなかええセンスやない? 岐阜県って、関東でも関西でもない、ビミョーな土地やな、って思ってたんやけど、のどかにしてはええチョイスや」
と、美来ちゃんが口に出していたが、冷静な猫のような花音ちゃんは、
「関東と関西の境目は、岐阜県の関ヶ原だって噂だよ。まあ、明確な定義はないらしいけど。それに岐阜県は、中部地方じゃない?」
妙に博識なところを披露していた。
「まあ、岐阜県が関東でも関西でも、どっちでもいいよ。それにしても気持ちいい」
私は、お湯に浸かりながら、眼を閉じていた。
「風呂場で寝ないで下さい。溺れますよ」
花音ちゃんに言われて、薄っすらと眼を開けていた。
初めて来る、岐阜県の下呂温泉。そこは、確かに気持ちいい温泉だった。
無色透明で、なめらかな肌触りの、ほんのりとした湯の香りがする、恐らく単純温泉だと思ったが、なかなか温泉好きの心を刺激してくれると思った。
さらに、これだけではなかった。
「下呂温泉で、有名なところに行ってみましょう」
湯上りに少し休んだ後、花音ちゃんが言うので、彼女に従って、街を歩いてみた。
すると、飛騨川の両脇にずらりと並ぶ温泉旅館やホテルが並ぶ様は壮観だった。だが、彼女の脚は不思議と、温泉旅館やホテル、日帰り温泉施設ではなく。
そのまま、下呂大橋という橋を渡ってしまった。
一体、どこに行くのかと思いきや、川の中州に降りていった。
一見すると、どこにでもありそうな河川敷。
まるで街中の公園のような、あるいは河川敷に広がる野球場のような感覚を覚える、その中洲。
そこに、石で囲まれた「お湯」が張ってあった。
「ここです」
「足湯?」
そう。そこは、石組みで囲まれた足湯だった。
早速浸かってみると、少し熱いお湯が、逆に気持ちよく、ずっと浸かっていられる気持ちよさだった。
だが、不思議なもので、周囲には囲いがなく、川の向こうに無数のビルが建っている。
しかも、
「ここ、昔は普通に露天風呂だったそうですよ」
のどかちゃんが口走ったから、私を始め三人が驚いていた。
「マジで?」
「ありえないでしょう。丸見えですよ」
「ホンマですね。恥ずかしくて入れへんのとちゃいますか?」
私、花音ちゃん、そして美来ちゃん。全員がそのかつての有り様に信じられない様子だったが。
後で調べてみると、本当にかつては露天風呂だったらしい。現在は足湯だけになっているが、料金は完全無料だ。
ちなみに、ここを「下呂温泉 噴泉池」と言う。
時刻はちょうど昼の1時30分。
遅い朝食を済ませたとはいえ、空腹になってきた私たちは、遅い昼食を求めることになった。
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