40湯目 鳥取砂丘

 出発から約2時間半後。


 山梨県から長野県を経由し、岐阜県に入った。


 恵那峡えなきょうSA。


 ここで休憩となった。


 そこで、私は改めて主催のまどか先輩に聞いてみた。

「なんで、鳥取県なんですか?」

 と。


 そう。目的地が鳥取県の三朝温泉だというが、正直、なかなかマニアックな選択と言える。

 その理由が知りたかったのだ。


「ああ。鳥取県ってのは、普通の人は『一生行かないんじゃないか』って思えるくらいマイナーな県だろ」

「鳥取県の人が聞いたら怒りますよ?」

 と、笑いながら私が返すが、実際、一般人の感覚ではそんなものかもしれない。


「だからこそ行ってみたかったんだよ」

「まどか先輩らしいというか、変わってますね」


「今さらよ、大田さん。まどかは変人だから」

「照れるな」


「誰も褒めてないわ」

「あはは」

 まどか先輩と琴葉先輩の息の合ったやりとり。久しぶりに聞いた気がして、なんだか「ほっこり」するのだった。


 一方、内心、心配していたのどかちゃんだったが。

「先生。凄い楽しそうな運転ですねー。興奮しましたー」

「そうか。安房、お前、見どころあるな」

 完全に杞憂に終わっていた。


 そもそものどかちゃん自体、潜在的に「スピード狂」の側面がある。心配するだけ無駄だった。むしろ分杭先生とすっかり仲良くなっていた。意外なコンビの誕生だった。


 再び出発。

 岐阜県を越えて、いよいよ関西圏に入る。


 そこからは名神高速道路、中国自動車道に入り、さらに4時間余り。


 昼頃に、加西かさいSAに到着。兵庫県に入っていた。鳥取砂丘までは残り約115キロ、1時間半あまり。


「いや、遠いっすね、さすがに」

 美来ちゃんにとって、初めての長距離高速移動になる。


「いきなりこんな長距離移動だけど、大丈夫?」

 私が、気になって声をかけるも、


「ああ、心配いらないっすよ。それに関西圏まで来ましたしね。ウチにとっては、地元みたいなもんすから」

 疲れた顔を見せず、彼女は元気そうだった。


「大丈夫よ、大田さん」

「琴葉先輩」


「後ろから見てたけど、その子、なかなかセンスがいいわ。初めてとは思えない高速走行ね。合流も追い越しも上手いものだわ」

「ありがとうございます、琴葉先輩」

 彼女から見れば、3つも年上のお姉さんである、琴葉先輩に褒められて、美来ちゃんは上機嫌になっていた。


 そんなやり取りがあった後、昼食を摂り、出発。


 そして、ついに。


 15時頃。

「うおー。着いたぞ!」

 駐車場にバイクを停めて、めちゃくちゃ嬉しそうな声を上げていたのは、まどか先輩だ。


 駐車場からはもちろん「歩き」だが、実は鳥取砂丘会館の近くにある駐車場からは、階段を上ってすぐに、「砂丘」が広がる。


 上ってみると、

「うわ。これはすごいですね」

 私も感動していた。


 見渡す限りの砂の丘。

 どこまでも続く、黄色、いや黄土色の大地。


 中でも「馬の背」と呼ばれる丘が圧巻で、昔、見た西洋の映画に出てきた「砂漠」そのもののような「砂の丘」が見事だった。


 実際、自由に歩いて行ける場所で、みんなで歩いてみたが。

「めっちゃ遠いっす。しんど!」

 早くも美来ちゃんが声を上げていたが、それもわかるほど、見た目では「あまり遠く感じない」ように見えて、その実、歩いてみると、「馬の背」まではめちゃくちゃ遠い。


 その上、砂の丘に登るのだ。


 砂に足を取られるため、思いのほか、上手く進まないというか、普通のアスファルトの道を歩くよりも、はるかに疲れるのだ。


 しかも長距離をバイクで走った後だから、尚更で、私はヘロヘロになりながらもようやくこの鳥取砂丘が誇る「馬の背」の上に登ることが出来た。


 そこからの眺めは圧巻だった。


 どこまでも続く砂の大地、雲はあるが青い空、そしてはるかに見える日本海。


 言ってみれば、ここが鳥取観光のメインだが、一度来てみる価値はあると思うのだった。


Bravissimoブラビッシモ! すごい光景ネ」

「へえ。これが鳥取砂丘ね」

「ま、たまにはいいんじゃないですか。こういうところも」

「綺麗ですねー」

「めっちゃ疲れた!」

「よっしゃ! 鳥取砂丘制覇だぜ」

「久々にランエボを長距離走らせて満足だぜ」

 一人だけ感想が、鳥取砂丘とは全く関係がなかったが、みんなおおむね満足のようだった。


 一通り、鳥取砂丘を楽しんだ私たちは、夕方になり、宿に向かうことになった。


 今晩の宿は、美来ちゃんが手配してくれた、三朝温泉にあるホテル。


 ここからは1時間ほどで到着する。

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