39湯目 知られざる県への旅立ち

 私にとって、高校生活最後の大がかりなツーリングとなった。


 3月21日(金)朝6時。8人全員が集まったのは、いつもの塩山駅前のコンビニではなく、山梨県笛吹川フルーツ公園という、丘の上にある大きな公園で、単純な話、ここの方が「広い」から選ばれていた。


 私のKTM デューク、まどか先輩のヤマハ SR400、琴葉先輩のスズキ Vストローム250、フィオのドゥカティ モンスター、花音ちゃんのホンダ CBR250RR、美来ちゃんのカワサキ ZX-25R、そして何故かついてきた分杭先生の三菱 ランサ―エボリューション。何故かのどかちゃんのSYM X-PRO100だけはいなかった。


 総勢6台のバイクと1台の車が集まる様は壮観だった。


 この時期、山梨県の日の出時刻は、概ね5時半。すでに日が昇っており、薄っすらと遠くには雪をかぶった富士山が顔を見せていた。


 富士山は、山梨県からよく見えるが、3月と11月は綺麗に見える。逆に夏は霞んでいて、綺麗に見えなかったりする。


 さすがに早朝の公園は、空いていた。


 そんな中。

 私が一番最後に到着したためか、すでにみんなはくつろいでいた。


 6人がそれぞれ話をし、分杭先生だけは灰皿の前で、古臭い紙タバコを吸っていた。


「ごめんなさい。遅くなりました」

 と言って、携帯を見たが、まだギリギリ5時58分だった。


「ああ、大丈夫だ。まだ時間じゃない」

「大田さんにしてはゆっくりね」

 まどか先輩と琴葉先輩に声をかけられた。


 すでに、2人とも、この4月には大学2年生になる。つまり今年、20歳になる。


 残りの4人は、すでに話が盛り上がっていて、会話に集中していた。フィオ、花音ちゃん、美来ちゃん、のどかちゃんだ。


 8人もいると、話が盛り上がるのと同時に、「まとまりがなくなる」という欠点もある。


 ツーリングでは、よく「マスツーリング」と言って、大勢のライダーが千鳥走行(左右に分かれて並んで走る)をすることがあるが、私にとっても、これだけの人数で走るのは初めてだった。


「というか、のどかちゃんだけバイクで来てないんですけど、どうしてですか?」

 とりあえず、気になっていることを聞いてみると、


「あ、瑠美先輩。おはようございます。のどかだけ、高速道路乗れんやないですか。さすがに鳥取に行くのに、オール下道は無理ゲーやさかい、のどかだけは先生の車に乗ってもらうことにしたんす」

 朝から元気な後輩、美来ちゃんが、私に気づいて説明してくれた。


 だが、分杭先生の運転を知る私はむしろ、

(気の毒に)

 と思うのだった。


 まずはルートが提示される。


 元々、今回の旅行の言い出しっぺは、実はまどか先輩らしかった。


 彼女らしいというか、大雑把だけど、面倒見がいい姉御肌な彼女は、卒業しても常に私のことを気にかけてくれていたらしい。


 携帯の地図アプリでルートを示した彼女。


 今回は、高速道路を使う。

 もっともそれでも中央高速道路経由で、625キロほど、約8時間はかかる計算になる。


 最初の目的地は、鳥取県で一番有名なところ、鳥取砂丘らしかった。


 元々、まどか先輩が、

「いやー、せっかくだしな。日本に唯一ある『砂漠』ってのを見てみたかったんだ」

 と説明していたが、すかさず親友の琴葉先輩に、


「まどか。鳥取砂丘は、砂漠じゃないわよ」

 と突っ込まれていた。


「えっ。マジでか」

「ええ。砂丘は風で運ばれた砂が作る丘のことを言うの。それに対して、 砂漠とは年間降雨量が少ない場所に出来るものなの。鳥取砂丘の周りには森林もあり、降水量も多いから、正確には砂漠じゃないの」


「それでも、あの砂の丘を見てみたいんだ。ロマンなんだ」

 と、よくわからない言い訳をして、まどか先輩は琴葉先輩から、


「はいはい」

 と呆れられていた。


 ということで、出発となるが。

「よろしくお願いします、先生」

 と言って、ランエボの助手席に乗り込むのどかちゃんが、気の毒に思えた。


 分杭先生は、当初、一人で鳥取県まで行くと思っていたのか、相棒が増えて嬉しいのか、それとも「走り屋」の血が騒ぐのか、


「よし、任せておけ」

 と乗り気だった。


 とりあえず、言い出しっぺのまどか先輩を先頭に出発となり、それぞれ千鳥走行を意識しながらも、まずは高速道路に乗って、途中の大きなSAを目指すことになった。


 まどか先輩、フィオ、花音ちゃん、私、美来ちゃん、琴葉先輩、そして最後に分杭先生とのどかちゃんの順番で出発。


 後ろからは、ランエボの強烈なエンジン音が響いていた。


 長い旅路の出発だった。

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