38湯目 サプライズ温泉旅行計画

 私がバイクで、実家から近い、フルーツラインにある、「牛奥みはらしの丘」に向かったところ。


 なんとすでに全員が集まっていた。

 花音ちゃん、美来ちゃん、のどかちゃんに加え、卒業生のまどか先輩、琴葉先輩、フィオ、さらに分杭先生と総勢7人の女子が集まっていた。私を加えると8人で、かなり賑やかになる。


 その全員から、次々に、

「おめでとう」

 と言われ、私としてはもちろん悪い気はしなかったが、わざわざ示し合せたようにここにいたということは、最初から「計画していた」と見る方が妥当だろう。


 一応、聞いてみると、

「ああ。花音から言われてな。大学合格発表の日に、サプライズで知らせるように準備していた」

 まどか先輩があっさり白状した。


 つまり、この数か月の間、彼女たちは受験勉強で忙しい私に気を遣って、一切連絡を取ろうともしなかったのに、その間に、ずっと密かに準備していたのだという。


「ていうか、私が受からなかったらどうするつもりだったんですか?」

 呆れ気味に呟くと、眼鏡をかけた琴葉先輩が、まるで親が子を慈しむように柔らかい声を上げた。


「そんな心配はしてなかったわ。大田さんならきっと受かるってわかってたから」

「呆れました」

 言いながら笑い出した私に、彼女たちもつられて笑い、そこには笑いの渦が満ちて行った。


 そして、

「ところでどこの温泉に行くつもりですか?」

 そっちの方が正直、気になっていた。


三朝みささ温泉って知ってはります?」

「ううん。どこだっけ?」


「鳥取県です。まあ、関西じゃそこそこ有名なんすけどね」

 もちろん、美来ちゃんの答えだ。


「いやあ、色々考えたんだよ。北海道の登別温泉がいい、とか九州の別府温泉がいい、なんて意見もあったんだがなあ」

 とはまどか先輩。


「北海道は、まだ雪があるかもだから、怖いでしょ。それに九州も遠いしネ」

 フィオだ。


「そこで、みんなで意見を出し合って、話し合った結果、1泊2日か2泊3日くらいで行ける、温泉で、あまり有名すぎないところがいいという話になりまして」

 と、今度はのどかちゃんだ。


「有名すぎると、人が多くて、かえって落ち着かないですからね。瑠美先輩には受験勉強の疲れを癒して欲しいので」

 最後に、花音ちゃんが締めるように呟いた。


「どうして、みんなそこまで私のために?」

 私自身はもちろん嬉しいが、そこまでしてもらう義理もないような気がしていた。


 すると、

「なに、みんなお前さんには感謝してるのさ」

 まどか先輩が相変わらずのぶっきらぼうな口調で返してきた。


「そういうことね。大田さんがいたからこそ、私たちはみんな楽しめた。だからみんなであなたへの恩返しを考えたのよ」

 琴葉先輩だ。


「じゃ、そういうことで早速……」

 気が早いのか、もう美来ちゃんが動いていた。


 彼女はネットから宿を検索し始め、それに花音ちゃんが付き合わされていた。

 計画はあっという間に決まり、その月の3月21日(金)から23日(日)にかけて、2泊3日で行くことになった。なお、21日は祝日で休みであり、高校の卒業式はその前の18日だった。


 幸い、4月から東京で一人暮らしをする私は、3月末には家を探して引っ越しをする必要がある。


 その月末期間を避けてくれたのはありがたかった。


 私は彼女たちの好意に甘えることにした。


 温泉ツーリング同好会の、集大成が今、始まろうとしていた。

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