33湯目 勇み足
10月中旬。
私たちは、初めて「4人」でそれぞれのバイクに乗り、温泉ツーリングを敢行した。
そして、その旅は、思いのほか、過酷なものになるのだった。
出発は、いつものように塩山駅近くのコンビニに集合。時間は午前7時。
だが、
「美来ちゃん。そんな薄着で寒くない?」
彼女、野麦美来の格好がいかにも寒そうに見えた。
一応、ライダースジャケットらしきものは着ていたが、明らかに夏物の薄手のコートというより、パーカーみたいなものだったからだ。
「大丈夫っす。ウチ、寒さには強いんで」
と言っていたが、どうも不安になる。
さらに、
「すみません。遅れましたー」
と言って現れたもう一人の1年生、安房のどか。
彼女は、ロングスカート姿に、やはり薄手のジャケット姿だった。
いくら猛暑が長引いている地球温暖化真っ盛りの時期とはいえ、10月の山は寒い。
私が同じように、彼女にも聞いてみると、
「大丈夫ですー。一応、防寒着も用意してきましたので」
彼女の方は、用意周到にリュックに、防寒着を用意してきたらしい。
スカートなのは、本来、バイクではNGだが、彼女の場合、またがる必要がなく、足を置くだけのスクーターだから、この際、よしとしようと思った。丈の長いスカートなら、風で大きくめくれることもないだろう。
そして、花音ちゃんだけは相変わらず、ブレなかった。
逆に暑そうにも見える、ライダーススーツをきっちり着こなしてきて、今にもサーキットに行きそうな格好だ。
「何ですか?」
私がニコニコしながら、花音ちゃんを見つめていたのが、気になったのか。彼女から怪訝な視線を向けられていた。
「ううん、別に。花音ちゃんは、ブレないなあ、って思って」
「いいじゃないですか。私はバイクが好きなんです」
その一言に、私は安心した。
彼女だけは、何があろうとブレないだろう。
先導は、珍しく野麦美来、安房のどかの1年生コンビが務め、そのすぐ後ろを2年生の花音ちゃんが見守るように走り、私は最後方になった。
最初から不安を残したまま、スタートしたこのツーリング。
のどかちゃんが100ccのバイクに乗っているため、高速道路は使えない。下道だけで長野県北部まで行くことになった。
距離、約160キロ。時間にして4時間。昼くらいには着けるだろう。
そこから日帰り温泉に入って、真っ直ぐ帰れば、夕方には家に着ける。
実際、不安はあったが、彼女たちは思った以上に「速かった」。
美来ちゃん、のどかちゃんはかなりかっ飛ばしており、それに従う花音ちゃんがまるで警察官のようにぴったりマークして二人を追う。
私は、マイペースに後ろから追った。
もっとも、途中に立ち寄る道の駅を指示していたので、彼女たちなら待っていてくれるだろう、と見越していた。
最初の休憩ポイントとなる、道の駅はくしゅう。山梨県北杜市にあり、長野県との県境に近い。甲州街道(国道20号)沿いにある。
そこの駐車場に私が入っていくと。
何やら、言い争いの声が聞こえてきた。
ヘルメットを脱いで、彼女たちの元に向かう。
「せやから、きちんと車の流れに乗ってますやん」
「そうですよー」
「流れに乗るのはともかく、あんたらは無理な追い越しとすり抜けが多すぎるって言ってるの。あんな運転してたら、そのうち事故るよ」
なるほど。すぐに理解した。
無理な運転をしていた1年生二人に、花音ちゃんが怒っていたのだ。なんだかんだ言っても、彼女は公道では無茶な走りはしない。
サーキットでは滅法強いし、速いが、その分、公道では速いものの、危険運転はしないのだ。
だからこそ、危険運転をする後輩を放っておけなかったんだろう。
私も間に入って、事情を聴いて、アドバイスを加える。
「花音ちゃんの言う通りだね。すり抜け自体を否定する気はないけど、2人のバイクは小さいから、余計に危ない。細心の注意を払って、ゆっくりすり抜けすること。すり抜けでスピードを出すのは、危ないよ」
花音ちゃん曰く。
「すり抜けでスピード出しすぎ」
だった。
確かに、街中ではスクーターのような小回りが利くバイクは有利で、よくすり抜けをするライダーが多いが、信号機のある交差点で停まっている車の横を、猛スピードで駆け抜けるライダーがいる。
あれは、いざとなったら、本当に危ないのだ。
花音ちゃんに加え、私にも言われたことで、ようやく彼女たちは、
「すんません、わかりました」
「はい。気を付けますー」
と納得はしてくれるのだった。
道は続く。
まもなく信州に入ろうとしていた。
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