第7章 中房温泉

32湯目 4人体制スタート

 ようやく最後の一人、のどかちゃんが免許を取得し、バイクを手に入れたことで、私たち温泉ツーリング同好会は、全員がバイクを手に入れることになった。


 そして、初めての4人体制で次に行く温泉地を検討する段階に入る。


 私としては、

「免許取り立てで、まだ慣れてないから出来れば遠出はしたくない。日帰りで行ける範囲で考えて」

 と部員たちに注文をしていた。


 各自が考えてきて、3日後に発表となった。


 3日後の放課後。

 部室に集まった、部員3人に尋ねてみた。


「増富温泉ですね」

 とは、花音ちゃんの弁。


 増富温泉は、ここ山梨県内にある、貴重なラドン温泉である。確かに同じ県内にあって、行きやすいかもしれない。だが、実は欠点があった。


「いいけど、山深いし、道が悪そう」

 地図アプリで検索をかけると、この増富温泉がとんでもなく山の中にあり、しかも道幅が狭く、ダートの場所もあると思われた。

 つまり、初心者にはハードルが高い。


 私は難色を示した。


「ほんなら、熱海はどないです? 関東の温泉では一番有名なんちゃいます?」

 関西出身の美来ちゃんにとって、「熱海」は一種の憧れなのかもしれないし、確かに熱海というのは、古くから温泉地として有名で、首都圏から近いことから、保養地・温泉地として「東京の奥座敷」的な意味合いでも、バブルの頃には人気があったらしい。


 ところが、ここ山梨県からは意外に遠いし、箱根の山を越える必要があるので、アクセスが悪い。


 同じく難色を示す私に、最後に残った、のどかちゃんが面白いことを提案してきた。


「でしたら、中房なかぶさ温泉なんてどうでしょう?」


「中房温泉? のどか、それどこやねん」

「聞いたことないな」

 美来ちゃん、花音ちゃんが首を傾げる中、私とのどかちゃんは知っていた。


「確か長野県よね?」

「ええ。安曇野あずみの市ですね」

 早速、私は地図アプリから調べてみた。


 ここ甲州市から高速道路で中央自動車道、長野自動車道経由で、約2時間半。下道なら4時間。距離160キロ程度。

 日帰りツーリングなら適度な位置だろう。


 それに調べると、この中房温泉は、江戸時代から続く老舗の温泉街で、日本百名湯にも選ばれていた。


「悪くないね。それにしましょう」

 私の鶴の一声で、目的地は決まっていた。


 実際、意見を聞いても、特に反対意見がなかったのもあったが。


 ともかく、次に目指すべき目的地は、長野県の中房温泉と決まる。

 季節は10月中旬。


 ちょうど少しずつ肌寒くなり、秋に差し掛かる頃で、温泉に行くにはいい季節だった。

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