第4章 小豆島温泉
15湯目 西の島へ
あっという間に7月に入り、7月10日の、安房のどかちゃんの誕生日が来たが、もちろん彼女は普通自動二輪免許取得に間に合わなかったらしいという噂を聞いた。
そのうち、夏休みが目前に迫ってきた。
3年生で受験生とはいえ、私は「高校生活最後の夏休み」に、出来れば彼女たちとどこかに行きたかったから、部活動において、彼女たちに相談を持ち掛けたのだった。
「夏休み、どこに行きたい?」
と。
「はいはい! ウチ、せっかくやし、西に行きたいっす」
張り切って声を上げたのは、もちろん美来ちゃんだった。
「西って?」
「
「小豆島? ってどこ?」
「マジっすか。先輩、小豆島も知らんのですか?」
この間の、下呂温泉のことと言い、地理的には壊滅的に「西に疎い」花音ちゃんの反応に、西の出身の美来ちゃんが得意気な顔を見せる。
「瀬戸内海に浮かぶ小さい島なんすけど、綺麗で、温泉もあるらしいっすよ。一度行ってみたいんすよね」
「へえ。離島か。いいねえ」
私にとっても、離島ツーリングは初の体験だし、離島の温泉というのも興味がある。
だが、
「でも、どうやって行くんですか?」
「そりゃ、もちろんバイクで」
花音ちゃんに言われ、反射的に答えたものの、私も気づいてしまった。
「そっか。瀬戸内海まで、さすがに下道で行くのは面倒だし、かと言って電車で行ってもらうのも……」
言いかけて、彼女たち、つまり1年生の二人が、嫌そうな顔をしていることに気づいてしまった。
「電車で行っても、その後、フェリーですしね。結構大変だと思いますよ」
のどかちゃんが声を出す。
その通りで、地図アプリや電車アプリで調べても、小豆島へは交通機関だけで行くのは色々と面倒だった。
電車で高松か姫路か岡山まで行って、そこからフェリーが一般的だが、そもそもお金も時間もかかる。
つまり、「高校生」の立場では、現実的ではない。
かと言って、あの「スピード狂」の分杭先生に頼むと、1年生がショックを受けて、同好会を辞めかねない。
という、危機感が私の中でふつふつと湧き上がってきた。
つまり、計画が完全に「行き詰って」しまった。
一旦、
「保留にしておいて」
と言って、その場は言葉を濁して、この話から逃げていた。
そして、帰宅後、元・バイク乗りの父に何気なく相談してみたら、
「なんだ。そんなの簡単じゃないか」
彼が提案してくれたのは、私が「完全に見逃していた」盲点にあった。
「簡単?」
「お前の先輩たちがいるだろ」
「あっ」
ようやく気付いた。
もう卒業しているが、まどか先輩、フィオ、そして琴葉先輩。
つまり、「高速道路をタンデムで走行するのに、普通自動二輪免許取得後、3年が必要」なのだが、16歳で免許を取った彼女たちなら、この年、19歳になっていれば免許取得から「3年」経っていることになる。
すぐに、LINEで相談した。
すると、
―あたしは、誕生日が5月だから、全然いいぞー―
まどか先輩だ。
彼女は、卒業後に、二輪の整備士専門学校に通っているが、夏休みは2、3日なら取れるという。
さらに、
―ワタシもOKだヨー
フィオは、誕生日が7月だといい、ちょうど誕生日を迎えるところだった。
つまり、今から計画を立てれば間に合う。
おまけに、実家のイタリア料理店を継ぐため、現在は調理師専門学校に通いながらも、その抜群の容姿を生かして、彼女はモデルのバイトまでしているため、お金に余裕があるという。
唯一、
―ごめんなさい。私は誕生日がまだだから、無理ね―
琴葉先輩だけは、誕生日が10月だったため、さすがに無理だったようだ。
だが、これで2人は確保できたし、2人いれば、十分だ。
私は、すぐに同好会のグループLINEで、後輩たちに朗報を知らせ、翌日の放課後に、彼女たちに提案をした。
「マジっすか。それは助かります」
「本当ですか。ありがとうございますー」
2人の下級生たちは、すぐに応じてくれるのだった。
あとは、日程を決めて、調整するだけだ。
もっとも、実際に高速道路を使って、バイクで行くだけでも大変で、フェリーが出ている港までの時間と距離を算出すると。
ここ甲州市から高松港まで約8時間、640キロ。新岡山港までも同じく約8時間、610キロ。一番近いと思われる姫路港でも約6時間40分、540キロ。
どのみち、1日がかりの旅になることは必定だった。
一応、詳しいと思われる、関西出身の、美来ちゃんに聞いてみた。
「どこから行くのがオススメ?」
「そうっすね。ここからの距離やと、確かに姫路が一番近いんすけど。姫路からフェリーやと確か1時間半以上かかるはずなんすよ」
「そうなんだ」
「せやから、実は高松からフェリーが一番近いっすね。確か1時間くらいやったと思います」
なるほど。
直線距離で、甲州市からは一番近いと思われる姫路。
ただ、結局、姫路からは長い時間、船に乗ることになる。
船酔いするかも、とか、せっかくだから、四国に上陸して、と考えると、自走で高松まで行って、フェリーというのが一番面白そうではある、と私は思ってしまった。
彼女たちに意見を聞いてみると、
「私は瑠美先輩に任せます」
花音ちゃんは、割と投げやりだった。
「わたくしも、お任せしますー」
のどかちゃんも、自主性がない回答。
残った、美来ちゃんはもちろん、
「ウチは、高松でええと思いますよ。もちろん、先輩たちが運転するんで、そこは任せますけどね」
という回答。
無難に、高松にすることにした。
もちろん、まどか先輩も、フィオも、
―いいぞ。四国、行ったことないし、楽しみだ―
―いいネ! 四国でも九州でも行っちゃうヨ!―
2人とも全力で楽しんでくれそうな回答だった。
つまり、「バイク乗りは、フットワークが軽い」のだ。
こうして、とんとん拍子に、小豆島行きが決まって行くのだった。
日程は、2泊3日。夏の盛りの8月頭に決まった。
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