第19話 食物連鎖の最下層
「あれは…」
「なんか、鳥だ!」
「ブラントバードじゃないか?」
「そんな名前なんですか?」
ダチョウによく似てるけど、という言葉を尻目に、羽を広げて威嚇する鳥――否、モンスターを見据えた。
「でも、足速そうだね」
「実は鈍足なんだ」
「え、そうなの?」
「見かけによらないけどな」
こういう、初心者には狩りやすいモンスターが湧く場所は人気スポットになる。この高月ダンジョンがここまでの集客…客?力を持っているのはそういうことだ。
ブラントバードはダチョウの色合いとシルエット、クジャクの飾り羽を足して二で割ったような鳥で、羽も肉も比較的高く売れる。ただし今回は、羽はどうにかなるとしても肉は持って帰れないだろう。保存用のクーラーボックスを持っていない。
仕方ない。業者に頼むか。
モンスターの死体を解体して回収する業者というものは、ピンキリだ。仕事があまり良くない業者もいれば、値段のわりにいい仕事をする業者もいる。
前のパーティーの時には苦い思い出がある。頼む業者を間違えるとどうなるか、嫌というほど味わってきた。
「とりあえず、倒そう。俺が手本を見せるよ」
鉈はいろんな用途に使えるから俺はよく携帯している。ツタや枝を払ったり、固いものを割ったり。解体にも使用可能だ。毎回家に帰ったら洗って研ぐのを忘れない。
ダチョウとクジャクを足して二で割った、といったが、そのわりには人間でもあっけなく捕まえられるくらいにやつらの足は遅い。
警戒心だけはやや強いものの、それだけだ。
前かがみになって腰をおとし、ゆっくりと足をすすめ、その首めがけて手を伸ばす。
伝わってくるたしかな温度と共に、暴れ回る体を足で押さえつけ、全身を使いつつ、引き抜いた鉈をふりかぶった。
ぶつん、という音と、肉と骨を断ち切る感触がして、ブラントバードの頭が吹っ飛んでいった。
「わぁッ!?」
「大丈夫!?」
「だっ、うわ、生臭い…!」
奏さんの顔に思いっきりブラントバードの首がぶつかったようだった。まだけいれんしている体をよそに、あわてて鉈を地面に置き、駆け寄る。
「ごめん、本当に」
「いや、全然。驚かせちゃってこちらこそごめん」
奏さんはハンカチで顔の血を拭いながら、笑った。
「私もやってみるよ」
「じゃあ、これ使ってくれ」
「ありがとう」
予備――一応、奏さん用に持ってきた鉈を渡す。
案外、苦戦はしていないようで、あっさりと彼女はブラントバードを捕まえ、押さえつけていた。一度余りの暴れっぷりに手を放してしまったらしいが、二度目はしっかりと首を掴み、鉈で切り落とした。
「できた!」
「すごいすごい」
グロテスクといえばグロテスクな生首を、美女が片手で掴んでかかげる姿は、二度見必須な光景だった。
ブラントバードの群れはものの十数分で一匹のこらず死に絶えた。あちこちに転がる死体がその惨状を物語っている。
「こんな体験初めてだよ」
「そうか」
「ほんとに、私、仁さんと組んで良かったって思ってる」
そんなことを言われると勘違いしそうになる。落ち着け、俺。
ポケットに手を伸ばして、スマホを取り出す。手は近くの泉で洗ったから、一応綺麗ではある。
いつもの回収業者に連絡し、場所と階層を教える。これでも売った料金の方が業者の取り分より大きいから、やるとやらないとでは大違いなのだ。
ちなみに、俺も回収業のバイトはしたことがある。まぁまぁ大変だった。だがパーティーの仕事よりはやや楽だったので、わりと好きだった。
『では、高月ダンジョン13階層のブラントバード5体ですね』
「はい。よろしくお願いします」
これでまた懐が温まるかと思うと、ちょっと涙が出そう。
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