第15話 人は俗物だってよく言う

 高月ダンジョンというのは、実は日本で一番初めに出現したダンジョンでもある。俺は学生だったっけ。たぶん、高校生くらいだった気がする。


 世界では他にも「ダンジョン」なるものが出現した、という知らせがいくぶんかあった。遠い話だったので、あまり現実味が湧かなかったが、そのころのダンジョンは観光地として栄えていた。もちろん中は何が存在するのか不明であったがゆえに、一切立ち入り禁止だったな。


 両親に連れられてダンジョンを見に行ったとき、とても気分が高揚したのをよく覚えている。ビル丸ごとがダンジョンになっていたのだったが、そのビルは都内でも有数の高さを誇る建造物だ。


 首が痛くなるくらい見上げたときの感動は今でも忘れられない。


「…相変わらず、いつ見てもすごいな」

「ほんとだね」


 雲を突き破るかのような高層ビル。窓は曇り、内部は外側から一切見えない。

 破壊を試みようとしても徒労に終わり、建造当初とは異なる材質で生成されているらしいそのビルは、奇妙なことに、今でもなお成長し続けている。


 初めて見たときはここまで高くなかった。成長するダンジョンというのも、世界ではかなり珍しい。数本の指に入るかどうか、というくらいだ。


「じゃあ、行きますか」

「うん」


 装備を整えた俺たちは、受付に向かった。


 これだけ珍しく人気のダンジョンというだけあって、常時冒険者が殺到する。


 一日で何百人と受け入れているはずのダンジョンだけど、人気過ぎて予約が何週間先までも入っていた。

 今回は、夜の部の、それも深夜の時間帯に申し込んだので、なんとか予約を取れた。


 奏さんと俺はチームを組んだばかりだ。正式な手続きは予約待ちの数週間で処理しきれず、それぞれソロの冒険者、ということで受理される。


 ダンジョン内では別々のグループの冒険者が協力し合うことがよくあるし、不自然な視線は向けられない。

 入口の壊れたドアをくぐると、ひたすら生い茂るコケ、シダなどが見て取れる。それから丈の高い草。どれもこれもアマゾンの熱帯雨林みたいなのを想像すれば分かるだろうか。


 エキゾチックアニマルでも飛び出してきそうな雰囲気だが、残念ながらここで出てくるほとんどはモンスターである。


「ひろいなぁ」

「奏さんは来たことあったっけ?」

「なかったよ。他のダンジョンなら挑戦したことはあるんだけど、このダンジョン人気だから」


 一応、有名な物品――例えば財宝とか、希少度の高い素材はもうあらかた取りつくされて、一時期よりは混みあっていない。しかしそれでも結構な人を見かける。

 例えるなら、休日の水族館かな。


「まぁ出現してから何年かはすごかったもんなあ」

「今は落ち着いたんだけど、私が始めたてのころはね」


 このダンジョンの一階や二階はほぼモンスターがいない。あるのはコモンの植物だけだ。黎明期に目ぼしいものは取りつくされ、数階まではほぼ一種の娯楽施設になっている。

 時折真夜中にもかかわらず家族連れも見かけるし、係員も安全地までは配備されていて、完全に雰囲気がアトラクションか何かだ。


 薄暗いはずの内部は取り付けられたLEDライトで煌々と照らされ、廃墟の情緒などどこにもない。


「なんか、思ってたのと違うね」

「そうだな。普通のダンジョンはこういうのじゃないからな」


 一般的なダンジョンといえば、もっと小規模だったり、階層が一階しかなかったりもする。中小ダンジョンは今でもなお少しずつ出現してきている。大規模なダンジョンは年一、二度程度現れるが、現れたとたんに人が殺到するし、探索許可を取れるのは大概Sランクパーティーで、俺は行ったことがない。

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