第16話 下心は必須事項
未知の冒険というよりも、知りつくされた遊び場を進んで、数階上ると流石に人もまばらになってきた。
「ここから先は許可証がないとお通しできません。許可証をお見せください」
「どうぞ」
封鎖された入口に警備員が立っており、俺は許可証――入り口で発行されたものだ――を差し出した。
チェックされ、問題なく扉は開かれる。奏さんはどことなく楽しそうだった。
扉をくぐると、今度は一変して別世界のようだ。ライトはどこにもなく、薄暗さはいっそう増して、今でも少々行き交いはあるが、人の気配がかなり少なくなった。
ヘルメットについたヘッドライトのおかげで、少し遠くまで照らされているから、見えないことはない。
「ここからだね」
「そうだな」
歩みを進めると、足元に特徴的な草を発見した。
俺はしゃがみ込む。
「どうしたの?」
「これ、すりつぶすと猛毒になる草」
「えっ、そんなの持ってて大丈夫!?」
「手袋してるし、組織が壊れてなければ大丈夫」
初心者がこの草を素手で掴んで大変なことになる、という事例はままある。
その草は二股に分かれた茎から、とげのある葉が生えた姿だ。あまり見てくれが分かりやすく「毒」ではないので、初心者の陥りやすい罠の一つでもある。
「これがわりと高く売れるんだよ。初めの方で見つけたのは幸運だった」
「へー、なんで?」
「小型モンスターによく効く毒だから」
持ってきたポリ袋に毒草を入れ、ほかにもいくつか売れそうな植物を見つけたので、袋を分けて入れる。
こういうのは大体俺の仕事だったな。他のパーティーメンバーはこういうことを全然やろうとしなかったから、俺が全部やってた。
毒草とか薬草を集めたり、モンスターを解体して素材を仕分けたり、あと、モンスターのフンが肥料としてよく売れるから集めてた時にはバカにされたっけな…あれはこたえた。
ちょっと感慨に浸ってしまったが、だいたいロクでもない思いでしかなくてやっぱり涙が出そう。
「仁さんはすごいなあ」
「それほどでもないよ」
嫌味っぽくなったけど本当にそうじゃない。皆やればできることだと思うし。
でも一生懸命やってるのをバカにされるのは流石に嫌だ。
…奏さんはそういうことしないから良いよな。
草をかきわけて進むのは慣れたものだ。そもそも、ダンジョンというのは人の入るような土地ではない。
「わっ」
「大丈夫!?」
奏さんがつまづいた、と思ったその次の瞬間には、反射的に腕を掴んでいた。
「ありがとう仁さん…!」
「や、別に……」
すぐに手をひっこめた。うん、やべえな。今、ちょっとだけ触った…気がする。掴んだのは二の腕だったけど。
何とは言わんが、それ相応に柔らかかったな。
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