第2話 明らかに怪しい
高月ダンジョン。高層ビルそのものがダンジョンになってしまった、珍しい事例だ。
その建造物の前には、受付のセーフティゾーンがあり、警備員がまばらに歩き回っていた。ダンジョンを攻略しに訪ねてきたパーティーもの珍しくなく、平日にも関わらず、それなりににぎわっているようだ。
まあ、今時冒険者って本業でやってる輩もかなり多いし、当たり前か。
「えー、カーキ色のスカーフと、ジーンズ、サングラス、それから水色のスニーカーね…」
示し合わせてきたのは服装だ。こちらも自分の当日着ていくものを掲示板のやりとりで伝えた。
待ち合わせ場所はちょうど、目立つモニュメントの前になっている。だからそれなりに間違える心配は少ないと思うんだ。
「…あれか?」
待てよ。んー、と唸る。
これ俺から声をかけにいったら不審者扱いされたりしないだろうか。
若い女性、それもおひとり様。きちんと服装の基準には当てはまるが、それにしてもこれは罠か?釣りとかじゃないよな。それだったら困る。や、ほんとに。
でも女性であることを明記してなかったし、その可能性は低いか…?
そんなことを考えて、モニュメントから少し離れた場所で立ち往生していたら、なんとその女性が歩き始めた。
気の所為でなければこちらに向かって。
「あの」
「えっ、ああ」
「ペンネームは、『そのへんの騎士さん』で合ってらっしゃいますか?」
「は、い…そうです…」
「良かった。私、『パピヨン』です。お会いできてうれしいです」
「あっ、俺も、嬉しい、デス」
間近で見ると結構顔の整った人だった。見つめられるとどきっとするな。
『パピヨン』さんはサングラスを外し、セミロングの髪の毛を耳にかけた。
「じゃあ、まずは本名からお尋ねしても良いですか?」
「はい。俺、咲川仁といいます」
「仁さん、ですね。私、如月奏といいます。かなでって名前で気軽に呼んでくださいね」
「あ、奏さん、ですね」
「はい!」
なんだこの美人。めっちゃぐいぐい来るな。さてはこういう態度を誰にでも取って周りに勘違いさせる系統の人間か?まあ好意的に接してくれる裏に何があるか分かんなくてちょっと怖いけど、悪い気はしないし、いいか。
「それで、本題なんですけど…仁さん、私とバディを組んでくださいますか?」
奏はこちらから聞く前に詳しい説明をしてくれた。
曰く、ずっと勤めていた冒険者パーティーを抜けて、ソロで活動し始めたばかりだとか。しかしソロで活動するには限界を感じており、パーティーは諸事情で辞退しておきたいものの、誰か相方となってくれる人を募集していたらしい。
「なんか、仁さんって優しそうですよね。良かった、私、インターネットで出会った人って割と危ないかなとも思ってたんですが」
「そりゃ、ありがとうございます」
ここまで距離を詰めてくる美人、さては悪意さえあるな?純粋な好意かもしれないがどうしても疑ってしまう。だって自分の顔面の価値を理解していない美人なぞこの世に殆ど存在してないだろ。今やSNSでいくらでも情報が手に入る時代だ。
この人も自分の顔面の価値を存分に発揮しているに違いない。
「あ、立ち話も何ですし、座りませんか?近くのベンチとか」
「そうですね!座りましょう!」
自然な流れで提案してみたが、若い女の人ってどうやって接したらいいか分からない。だって俺もう三十路だぞ?二十代のうちはまだおっさんじゃないって言うやつもいるけど実際のところどうなんだか。下心見え見えの浅ましい輩に映っていたりしたら怖すぎる。死ねるわ。
「あの…役割は何でした?」
「あ、はい。えーっと、ヒーラー、でしたね。ただ、ちょっと色々あって…」
「あー、ヒーラー、ヒーラーですねー」
俺は思わずうなった。
「あんまりパッとしないって理由で皆から評価されづらいんですよねえ。ヒーラー。俺の役割もそうでしたよ」
「え、なんだったんですか?」
「バリア張る役割です」
彼女は何度か瞬きをした。
「バリア」
「ええ、はい。地味だと思いますよね?というか、そんなんで本当に戦ってるのか?って感じられる人もいるかと。だって防御ですから。めっちゃくちゃ大事なのには変わりないと思うんですけど、どうにも真価がアレだというか…」
「いえ、全然!もっと詳しく教えてください!」
「え、ああ?はい。えーっと、パーティーメンバー全員が傷を負わないように防御壁を張って、俺も一応戦闘に参加してて…あー、それは市販の道具使って攻撃してたんですけど、俺、魔法が防御魔法しか使えないもので…」
「本当ですか?」
「ええ。なんか、すいませんね。バリア張れるだけってちょっと面白みに欠けるというか」
「いや、大歓迎ですよ!そんなすごい人材が来てくれただなんて!」
奏の態度は驚くべきものだった。
「傷負わないバリアが張れるってすごいですよ!ちなみにどれくらいのモンスターのダメージなら防げますか?」
「え、大体大型のAランク級までなら防げるんですけど…Sランク級は無理です」
「Aランク級までいけるんですか!?」
「はい」
なんか、思った反応と結構違うぞ。
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