第3話 自分のことを亀だと思い込んでる野ウサギってたまにいるよな
なんか、思ったより俺ってすごいっぽい。
浮かんだ感想はそれだった。
「良かった。そんなすごい人とバディ組めるなんて、私、感激です」
「いや、それほどでも…」
世間一般の常識からするとそれは大分奇異な話らしい。俺は結構世間知らずだったようだ。動画のコメントじゃそんなこと指摘してくれる人間どこにもいなかったんだけどな。俺が見てなかっただけかもしれないけど。
だってアーカイブ見返す時間なんて忙しくてなかったし。そんな暇があればやるべきことが山ほどあったし。
あれ、やっぱり社畜根性?これ?涙出そう。
「じゃあ、今後について話し合いましょう。私、目標はダンジョンの攻略なんです。あなたは?」
「えー、っと……俺は決まってないけど、とりあえずの食い扶持を稼ぎたいです。何分、失業して無職になったばっかりなんで」
「なるほど。分かりました。あ、でも前衛がいませんね……」
奏は困ったように腕を組んだ。
「私、ヒーラーですからそういうの苦手なんです。道具を使えば多少なりとも攻撃はできるかもしれないですけど」
「あ、それなら俺がやりますから別に大丈夫ですよ」
「え?」
よくわかっていないようなので、説明した。
「俺、バリア張るだけの役割って言ってましたけど、一応攻撃役も兼ねてるんです。銃とか爆発物の扱いには長けてますから」
「そうなんですか!?」
「ええ、まあ」
「すごすぎますよ……私の方が気後れしちゃうぐらいの人材ですよ、それ」
「そういうもんなんですか?」
「そうですよ!逆にどうして今まで知らなかったのかってくらいです」
なんか俺べた褒めされてるんだけど。
話をすり合わせると、「攻撃役と防衛役を兼ねているのはどう考えてもすごいし、そもそも防衛役で上級モンスターの攻撃を完全に防げるバリアを張れるのはどう考えてもやばい」ということらしい。
え、そんなにやばかったの?自尊心がどんどんでかくなるわ。
俺ってすごかったのか。増長しすぎてやばくなりそう。嫌な奴にだけはならないよう注意しなきゃ。
「あー、そういえば、つかぬことをお伺いしますけど……どれくらいのランクのパーティーに参加しておられたので?」
「そういえばそうですね。まだ言ってませんでした、私はAランクのパーティーに参加してました」
「Aランク、すごいですね!俺はBランクでしたよ」
Aランクといえば結構な上澄みだ。上位10パーセントとかそんなくらいじゃなかったっけか。
「じゃあ、割と実力は似た者同士ってことですか?」
「いえ、とんでもない!私の方が下ですよ。話を聞く限り、多分、仁さんはソロで活動したらBじゃないと思います」
「言い過ぎですよ」
あんまりにも褒めちぎってくるので、ぎゃくに怖くなってきた。何らかの悪意とか潜んでないのだろうか。こういうところで人を疑うのはもう生来の気質なので仕方ない。
「あと、役割分担って話なんですが…俺、裏方の仕事は初めにきちんと分担しておきたいんですよね」
「ああ、はい」
「とりあえず、依頼の受注とか、情報収集とか、会計とか、素材の売却は俺がやるんで…あ、奏さんは配信とか大丈夫ですか?できれば配信したいんですけど、配信するとなれば、奏さんにスマホ持っててもらいたいなーと……」
「多すぎですよそれ!配信は全然いいです、でもそんなにたくさんやるのは不公平だと思います。もう少し私に仕事下さい!」
「え?」
「え?」
結構公平に配ったつもりだった。なんで不満を申し立てられるのかいまいちわかんない、というか俺の方がやりすぎだったのか?
「あんまり仕事が偏り過ぎるとこっちが申し訳なくなるので、私にも仕事下さい。前のパーティーでもそういうのはやったことがありますから、できます」
「いや、俺も前のパーティーじゃこれくらいやってたので……」
「え?多くないですか?」
「あ、多いんですか?」
そうだ、俺めっちゃ頑張ってたもんな。
「よく考えたらそうかな?と思ってたんですけど…多いですか?」
「多すぎますよ。というか、前のパーティーは何名だったんですか?」
「俺含めて五名でした」
奏は妙な顔をした後、うなった。
「どう考えてもそれ、かなり不平等な配分だと思います……五名いたなら、もっと仕事量は減る筈ですよ?外注とか、事務専門ならともかく、戦闘にも参加しててそれっていうのは…」
「そうですよね…自分でも結構頑張ってるなとは感じてましたが…」
「これからは私がその半分くらい請け負います。仁さんはもう少し休んでもらって」
「え、ありがとうございます」
女神か?優しすぎる。
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