第22話 戦闘できる後衛がいるわけ…いやいたわ
少しどころか、かなり緊張していた。ここでしくじることはできない。
レッドタイガーの何が恐ろしいかといえば、比類なきその体力と筋力、察知能力である。さらには持久力まで兼ね備えているので、到底まともに戦うことは避けたい相手だ。
「喰らえ!!」
スキンヘッドの男性が腕を大きく振りかぶり、先程と同じ閃光弾を投げつけた。今度は音が響かないタイプだ。
再び咆哮が周囲を席巻する。鼓膜が破れそうな音量だった、耳をふさいでいても。
「今です!!」
合図すると、各々がレッドタイガーめがけて攻撃しだした。女性二人は攻撃魔法で、男性二人はそれぞれ戦鎚と大剣を使うタイプらしい。
レッドタイガーはモンスターの中でも、そのランクに相応しい手ごわさを持っている。戦いなれている熟練の上澄みの冒険者は別として、この能力を見るに欠点はない――と思われがちだ。
ところが、このモンスターの短所は意外なところにある。
レッドタイガーの察知能力は、どれだけ息をひそめてその場に潜伏していたとしても、少し時間が経てば違和感を覚えられ、見つけ出されてしまう程度に鋭い。
裏を返せば、それだけ優れた感覚器官をもっている、というわけだ。
「こっちだ!」
大声で挑発すると、指し示したように注意が引きつけられる。
「俺には構わず攻撃してください!」
「分かりました!!」
「了解です!」
もとより奴の足にはかなわない。すぐに追いつかれることは目に見えていた。それを承知で他の人には攻撃を頼んでおく。
案の定、何秒か走ってすぐに、それなりの距離を詰められた。ものすごい迫力だ。
大丈夫、俺はできる。やらなきゃ。
白い牙が剥き出しにされたところで、ほんの少し笑った。
「効かねぇよ」
その牙が腕を裂いて頭蓋を砕く――なんてことはなく、目の前の透明な壁に阻まれて、折れた。
「オラァ!!」
「死ねッ!」
「行きますよぉ!!」
剣が肉に突き立てられる音、大鎚が骨を砕く音、それから、苦悶にまみれた吠え声。
それらが一斉に鼓膜をゆらして、頭が痛くなりそうだった。
炎の燃え盛る赤に突風。同じパーティーを組むには相性が良いわけだ。風魔法と炎魔法なら。
視線をそらして、少し奥を見ると、奏さんがいた。
彼女には音響弾を投げつける役割をお願いしていた。きちんとそれを果たせているようだ。酷い轟音が一定の感覚を置いてやってくる。
最後の抵抗と言わんばかりに、レッドタイガーは砕けた足で立ち上がり、裂けて見えない目であたりを見回そうとする。しかし、それもじきにかなわなくなった。
やがて荒い鼻息が、徐々に静まり返って、最後には完全な静寂になるまで、攻撃の手は辞められることはなかった。
「…やった?」
誰かがつぶやいた。それを皮切りに、歓声があちこちから上がった。
「やりましたよ!すごい!」
「ああ、すげぇ、レッドタイガーが死んだ!」
「あなた、すごいですね。本当に倒せてしまいましたよ」
索敵能力の高さは、すなわち感覚器官の鋭さとイコールである。つまり、感覚器官の鈍い生物がとらえられないようなかすかな音、光にも反応するわけで。
それを逆手に取れば、閃光弾や音響弾といった、強すぎる刺激への耐性は全く無いということなのだ。
それから、優れた反射神経を持っているため――知能がさして発達せずとも生き残ってこれた。なので、ランクの高いモンスターにしてはおつむの方が劣っている、というわけだ。
これらを利用すれば、上手く勝つことだってできる――まぁネットの先人たちの知恵を凝縮しただけみたいな策だけど。以前パーティーでやったときもこの方法を使用したので、実用性は立証済みだった。
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