第23話 モンスターに尊厳などないのだ
レッドタイガーを倒したことによって、目下の一番の課題は、「死体をどうするか」というものだった。
「じゃあ、取り分はこっちが二人分、そっちが四人分…1:2くらいですかね」
「え、そんなにもらえませんよ!」
人数で分配しようとしたら、あちらのパーティーの人にとめられた。
「いやいや、遠慮せずもらってくださいよ。俺もあなた方がいなきゃこんな作戦とれなかったはずですし」
「流石に遠慮しますって。あんなの、俺達だけじゃ倒せなかったはずです」
「それは言い過ぎですよ」
なぜか獲物の譲り合いになり、埒があかない。こんなの初めてだ。
前のパーティーの皆は強かだったので、毎回獲物になると血眼で争っていた。
以前のパーティーでは、死体から剥ぎ取った素材は入手した人が売って丸々自分の懐に入れて良いことになっていた。そのため、毎回血で血を洗う争いみたく死んだモンスターを取り合っていた。
肝心の獲物を山分けにする基準が何なのか、決めようとしても全然決まらなかったからああいうことになったんだろうが…こんなにがっつかない争いなんてなかった。
時にはポーカーで勝った人間が獲物を総取りしたり、戦闘に貢献した二人で山分けにしたり、色々あったなあ。
まぁ、俺に回ってくるのなんて本当にちょっとだったけど。
雑に切られた皮とか骨のかけらとか肉片とか、そういうのしか来なかったから、きちんとした解体のスキルと知識が身に着いた。全部が一概に悪いとも良いとも言えないな。
「じゃあ、俺、心臓は必ず欲しいです。それ以外はそちらのご自由に」
「私は…どこでもいいです」
「俺らは肉と血をもらいたいんですけど、あとはいりませんよ」
結果的に、レッドタイガーの肉と血があちら、骨、内臓、毛皮、牙、目玉など、主要な素材の取り分はこちら側、ということになった。
あまりにも穏やかな取引に拍子抜けしたところはある。以前のパーティーにいたとき、他のパーティーと組んだことはあった。ただ、その時も獲物をめぐって一触触発状態になっていた。決してここまで平和ではなかった。
「そういえば」
「うん?」
「奏さんはどうする?」
「えーっと、なにを?」
「ダンジョン攻略」
俺としてはレッドタイガーを倒せたことだし、別にここで引き上げてもかまわない。十分戦闘経験も積めたことだろう。
モンスターと遭遇したとき、撤退するために使う閃光弾や音響弾はなくなってしまったから、万一の備えという観点からしてはいささか心もとない。
「んー…とりあえず、行くだけ行ってみる、っていうのはどうです?」
「分かった。じゃあ、これからは戦闘はなるべく避けて体力は温存しておこう」
回収業者に追加でレッドタイガーの回収を依頼して、少し休息をとってから、入口に戻る彼らとは別れて上の階へと上がることにした。
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