第24話 なんでやねん

「まだ上があるんだね」

「そうだな。一応、いけるところまで行ってみるけど」


 あの、見上げるほど高いビルの最上階とは、一体どのようなものだろうかと想像してみる。実際、この高月ダンジョンの最上階に何があるのかは誰も知らない。何もないという話もあるし、驚くほど強力なモンスターが待ち構えているという噂もある。


 あとは、とんでもなくレアなアイテムがまだそこに眠っている、とか。


「奏さん、閃光弾の残りは?」

「あと三つ…くらいかな?音響弾の方は残り一つだよ」

「そうか…」


 すすめるところまで進むといったものの、やはり初心者一人とBランク一人で、こんな場所まで来れたことがかなり珍しいといっていいだろう。

 これ以上進めるだろうか。


 レッドタイガーを倒してから、様々なモンスターと遭遇しかけたり、戦闘を回避してなんとか上階に上がって難をしのいだりもしたが、段々とその階層を徘徊するモンスターが強くなってきている。


 上へいけばいくほど強力になるというのはこのダンジョンの鉄則だ。

 基本、ダンジョンは階層を重ねるほど、モンスターが強力になる。


 この階にはどうやらモンスターがいないらしかった。それなりに上の方へ来たので、このダンジョンですらあまり採集されていない、高値で売れる植物などを摘んでいると、奇妙なものを見つけた。


「なんだこれ」

「どうかしたの?」

「いや、これさ…」


 奏さんも覗き込む。


 それは50センチ四方ほどの、タイルのような赤い物体だった。


「なんだろ?」

「分からない…」

「とれる?」


 未知の物体に下手に素手で触るのはあまりよろしくないので、ひとまず手袋をはめて、それをつついてみた。反応はない。


 持ち上げようと試みたが、どうも地面に癒着しているか、とてつもなく重いか、まったく手ごたえがなかった。


「びくともしないな」


 今度は固さを確かめようとして、足でタイルを踏んだ。


 たしかにそのはずなのだ。


「は?」


 ぱっと、まるで映画のワンシーンみたいに、景色があっという間に移り変わった。先程迄の熱帯雨林はどこへやら、あたりにただ広がっているのが、白い大理石によく似た床と壁と天井だ。


 足元を見ると、同じ赤色のタイルが鎮座していた。


「え、いや、どういう…」

「仁さん!?」

「奏さん」


 タイルから少しどいた瞬間、何もない空間に奏さんが現れる。


 何が起こってるんだ?


「大丈夫!?あの、いきなり消えちゃって…」

「ああ、まぁ、いや、大丈夫、だけどここ…」

「…どこなんだろう……」


 そう言われて、あたりを見回すが、向こうの方にあるオブジェクトと、あと左右に配置された彫刻が入った柱以外は何もない場所だった。


「私、仁さんと同じようにあのタイルを蹴ろうとしたら、ここに来ちゃったんだよ。なんでだろ?」

「分からん。…とりあえず、あれ、見てみよう」


 真っすぐな廊下の、終わりにあるオブジェクト――チェストの形状を取っている。それを開けてみることにした。


 突き当りまでは数十秒ほどかかっただろう。タン、タン、と無機質な四面に、硬質な音がこだました。


「…じゃあ、俺が開けるから、奏さんはちょっと下がってて」

「あ、うん」


 一応、何が飛び出してくるかわかったものではない。

 チェストを閉じている錠前のような、金属の部分に指をかける。

 鍵はかかっていなかった。


 開いた。


「鍵」

「鍵だな」

「うん」


 箱の中身は、鍵だった。

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