第25話 そんな去年買ったけど流行りが廃れた服みたいな…

 この鍵を前に、俺達は少しの間悩んだ。


「どこの鍵なんだ」

「なんだろうね。見るからに重要そうだけどさ」


 アンティーク調の部屋に置かれていそうな、装飾の凝った、金属製らしき鍵だ。指でつまんで開けられる程度の大きさのそれは、細やかな何かの意匠をほどこされており、黒い錆びのようなものがついていた。


 鈍い金色の鍵をライトにかざし、ためつすがめつしてはみた。ただ、肝心のどこの鍵かはわからない、というのが難点だろう。


「本当にどこの鍵なんだろうな」

「このダンジョンに鍵を使う場所なんてあったっけ?」

「分からない。俺の知る限りはなかった気がするけど」


 本当に記憶にある限りでは、このダンジョンに鍵がかかっているなんて聞いたこともない…いや、ほんと知らないわ。誰かの忘れ物…って線はだいぶ薄いだろうな。だって、こんな重厚なチェストに入れられてた鍵なんて、あからさまにこのダンジョンで生成されたアイテムだろ。


「とりあえずしまっとくか」

「まぁ、そうだね」


 一応キープはしておくことにした。何かの役に立つかもしれないと考えて。



 そして、それは案外早くに訪れる。



 あの赤いタイルを踏んだ瞬間に、俺達はまた元の場所に戻ってこれていた。蹴る、というより踏んだら移動するのだろうか。


「…都市伝説にあったような」

「都市伝説?」

「昔、そういうの好きで色々見てたんだけど」


 確かめるまでもなく、あれはダンジョンの黎明期だった。学生だった身分ではよく図書館通いして本を読み漁った覚えがある。

 そのときに、「ワープポイント」という都市伝説がのっている、オカルト雑誌の記事を読んだのを、今もはっきり記憶していた。


「ワープポイントってさ、ゲームにもあるだろ。ダンジョンとか魔法とかが、ひと昔前じゃゲームみたいな存在である以上、ありえなくはないなと思ったんだけど…」


 奏さんに説明すると、案の定知らないようだった。そういう系の特集が好きな輩しか知らないもんな。それが当然。


「仁さんはいろいろ知ってるんだね」

「まぁ…否定はしない」


 褒められて悪い気分にはならなかった。


 さらに上の階へ進む。上階は、不気味なほど静まり返っていた。


「誰もいない」


 奏さんの言う通り、あたりには何もない空間がただ広がっていた。何もない、といってもいつも通りのジャングル…というだけなのだが、肝心のモンスターが何一つとしてない。虫もない。植物は生えている。

 だが生命の息吹というものが、どうにも欠如しているように感じられた。

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