第26話 黒幕感満載とかよくあるやつじゃん

 それから、のぼれどのぼれど全く動物やモンスターとは遭遇しなかった。異変を肌で感じるが、それでもひたすら、無言で階段をのぼり続ける。




 奏さんと俺は無言だった。


 どれくらいのぼったかはもう数えていない。とにかく、沢山の時間を費やした気がする。流石にここまでのぼるとは思わず、何度も休憩をはさんでは、のぼった。


 ――目の前にそびえたつ壁は、どう見ても、このダンジョンに似つかわしくない大理石でできていた。


 コンクリートでも土の壁でもなんでもない。


「鍵穴、あるな」

「あるね」


 もう疲れすぎていて、余分な会話は交わしたくなかった。俺は鍵を取り出して、先を穴にはめ、ひねった。



 ガゴン、という重厚な音がしたのちに、扉が、ゆっくりと、ゆっくりと動く。

 少しずつできた隙間から、あちら側を覗く。


 言葉は出なかった。


 そこは実に、近未来的な風景が広がっていて――青白い壁、巨大なコンピュータのようなもの、様々に映し出された画面、ここまでとは比べ物にならない沢山の情報があった。


「なにこれ」

「分からない」


 言葉少なに足を踏み出す。疲労が徐々に意識の外側へと吸い込まれていくみたいに、忘却された。

 眼前の光景に目を奪われたのだ。



『ようこそ、幸運なお方』


 突如として映し出された中央のモニターから、少しノイズがかった声が響いてくる。


『見事、このダンジョンを踏破せしめた勇気、そして努力、運を賞賛しましょう』


 男とも女ともつかない声はただ無機質に反響した。唾液を飲み込んで、耳をすませた。


『まぁ、随分運がよろしかっただけのようですけれどね。実力も運のうち、といいますし、まったくかまいませんが』

「…あなたは?」

『誰ですか、という意味で合っていますか?』


 それは聞き返してきた。これは録画でもなんでもないらしい。


『そうですねえ、強いて言うならこのダンジョンを管理しているもの、とでもいいましょうか』

「は?」

『まぁ、細かいことはいいんですよ。それよりも、このダンジョンは、これまで一切ここにたどりつかれなかったんです。なので、退屈で退屈で。

 あなたがたがたどり着いてくださったおかげで、いい暇つぶしになりました』

「いや、どういう…」


 きわめて無機質なはずなのに、感情を含んだ声。それを信じられるほど、非現実的な思考をしているわけではなかった。


『私は次のダンジョンでお待ちしています。令士ダンジョンです。その最下層でお会いしましょう』

「待てよ、まったくわからない」

「それと、記念品としてちょっとした品を贈呈いたしますので、どうぞお受け取り下さいね。そこの宝箱にあります。では」


 一切の意味を理解できないまま、画面はぷっつりと真っ暗闇に落ち込んでしまった。

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