第29話 俗に言うデートってやつな

 髪型とかを気にするのは思春期の中高生がやることだと思っていた。


「変なところないよな…」


 ぶっちゃけ、自分でもなんでこんなに浮かれてるのかわからない。はたから見たら恥ずかしいくらいどうかしてる。


「はぁ」


 鏡を再度確認して、いつもとは全く違う格好をしていることに自分でも驚いている。なんだよこれ。知り合いと会ったら気まずいな。

 何回も見た時計は、待ち合わせ時間よりもはるかに早い時刻を示していた。


 足早に玄関を出て、徒歩で待ち合わせ場所に急ぐ。その間も妙に浮かれている自分がいることを否定できない。

 場所はショッピングモールの、一階の広場の真ん中だった。俺は目立つ方でもなんでもないが、ちょっと探せば気づくだろ…ってあれ。


「奏さん?」

「あれ、仁さん早いね…私、負けちゃった」


 予定の時間よりずっと早い。どういうことだ。


「えへへ…ちょっと浮かれてるの、バレちゃったかな」

「え、ああ…いや…」


 うーん、待て。頭の中がすげえ混乱してる。ひとまず深呼吸して心を落ち着けようとしたが逆効果だったらしい。


 少し早めだけどご飯を食べようということになって、目的のファミレスに足を運んだ。昼前だということもあったからか、並ぶことなく入れた。


「何食べる?」

「私、オムライスかな」


 俺は無難にカルボナーラを頼んだ。無難にって何が無難なのか自分でもよくわからん。


 料理が出てくるまでは場つなぎに、話しやすい話題をいくつか挙げてみた。そこそこ続いたので、失敗ではなかったと言えると思う。


「そういえば仁さんはなんで冒険者になったの?」

「俺?」

「うん。気になるなあって」


 思い返してみれば、自分の意志がそこまで強くもない人間だった。今更認識できたのは「流されやすい性格」だというものだ。


「なんか、学生時代勉強苦手だったんだよな」

「そうなの?」

「そう。ものすごく勉強したくなかった。で、それでもやっていける職業って何かっていうと、冒険者だったってだけだよ」


 あと、博打が好きだったというのもある。賭け事とか結構よくやってたんだよな。あくまで仲間内でやるポーカーとかだけど。


「わりと命の危険もあるけどさ、そういうの、そこそこ好きなタイプなんだ」

「そうなんだ…初めて知った。そう見えないけどなあ」

「意外ってたまに言われる」


 他の冒険者に話したときはそれなりに驚かれた。やむを得ない理由か、それともイメージだけで冒険者になった奴が多数いる中で、俺は珍しい方の部類に入るらしい。

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