第28話 派手な仕事ばかりじゃないのは世界の鉄則
次の日にはベランダが天日干し中の野草でいっぱいになった。
ダンジョンの出入り口に素材を買い取ってくれる窓口は存在する。普通に頼めばだいたいの素材はその場で預かってくれて、ギルドと連携している口座に振り込まれる――というシステム。
でもこれ、実のところそこまで買い取り額が高くない。というか、足元見られて買い叩かれてる感じがある。
それを学習したのはやっぱり、前のパーティーでのことだった。たまたま知り合いの冒険者からその話を聞いて、ネットで調べてみたら案の定自分で持って帰って売った方が高いと普通に書かれていた。
どのサイトでも口をそろえてそんなことを言っているから、信憑性は推して測るべしってところだと思う。実際に自分で体験してみてもそうだったし。窓口で売るより、手間でも自分で売る方が何割か手元に残る金が増えた。それは当時の俺にとってめちゃくちゃでかかった。今もでかいけど。
だからまぁ、そのときからは、素材を持ち帰って、干したり保管しておいたりするのが多少面倒でも、この方法でやるようにしている。ほんと、かつかつだったからな。しょうがないんだ。
…にしても、今はかつてないほど余裕がある。何かって、金だ。金。
独り身だったから高額な冒険者向けの保険なんて一切入ってない。固定費は切り詰めて、食費も減らせる分は減らして、自炊オンリーでずっと暮らしてきたから、生活費はそこまで高くないと思う。
で、今まとまった金が一気に入ってきて、割と混乱している。
通帳を何回も見ては信じられないような気持ちになり、嬉しくもあるが、戸惑っていた。
「回収業者だけでこれかぁ…」
結構手数料を差っ引かれるはずなんだけど。多いな。いや、本当に。
今の生活を続けて、変に贅沢とかしなかったら、数か月は働かなくても暮らせそうな金額だ。
今まで預貯金が全然なかった分、貯蓄に回しておこうとは決めているけども。
冒険者というのは不安定な職業だ。不安定な職業で、なおかつ収入の差も激しい。頂点に立つ冒険者がセレブ並みの生活をしている中で、底辺を這っている冒険者は、冒険者業だけで食っていけない。
他にもいくつもの仕事を掛け持ちしてようやく生活が成り立つ――って俺のことだった。
「あ」
ポケットに突っ込んでいたスマホが振動している。誰からの連絡だろうかと思えば、画面に表示されていたのは、奏さんの名前だ。
慌ててボタンをタップして、画面を耳に当てる。
「もしもし?」
『あ、もしもし?仁さん?今忙しいかな?』
「いや、全然」
半ば寝っ転がっていた体をいそいそと起こす。なんとなく。
『あのさ…よければの話なんだけど、次の日曜日、一緒にご飯とかどう?』
「え、いいの?」
『うん!あ、予定とかあったら全然断ってくれていいんだけど…』
「いやいや、嬉しいよ。ありがとう、どこ行こう?」
これってあれだよな。多分役得ってやつだよな。うん。
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