第32話 自覚のないクズ、自覚のないクズ、そして結局お前もクズじゃないと見せかけた純粋なクズ!

「なあ、待てって」

「知らないわよ!引き留めるんならあんたがもうちょっとどうにかしなさいよ!」

「はぁ!?」


 恵美の言葉に、剛はカッとなって唾を飛ばした。


「お前こそ今このパーティーでの『役立たず』は誰だと思ってるんだ!?」

「おい、お前ら…」

「それは間違いなくあんたでしょ!?」

「ちげえよ!!」

「いい加減にしろよ!!!」


 とどまることをしらない口論を傍で眺めていた海斗が、とうとう大声を出した。

 普段ほとんど怒鳴ることも怒りを露にすることもない彼のことだ。二人とも、肩を揺らして驚いた。それから、彼を見た。


「海斗…」

「今罵り合って何になるんだ!?このまま食っていけなくなるまでお互いで足を引っ張り合うつもりか?!」


 二人は口をつぐんだ。まさしくその通りだった。


 パーティーメンバーのうちの、「役立たず」が抜けてから、このパーティーは変わってしまった。辛うじて保てていた体裁も、漣が抜けたことによって、いよいよ崩壊を間近に迫らせていた。


 ここのところ、出費ばかりが重なり、赤字続きで、儲かるどころかどんどんと金がなくなっていっている。配信をする余裕すら残されていない。広告収入や投げ銭での収入がない今、赤字は更に拍車をかけていた。

 剛や恵美の羽振りの良さも鳴りをひそめ、このままではまずいと誰もが自覚していた。


「…分かったわよ。私は謝らないけど!」

「ああそれでいいよ!俺も自分が悪いなんて思っちゃいねえしな!」

「なあ、これからのことを考えよう」


 海斗が淡々と告げる。


「俺達はこのまま行ったら破滅するだけだ。だから、あいつを頼ろう」

「…あいつ?」

「仁だよ」


 その言葉を聞いただけで虫唾が走る。しかし今は苦虫を食いつぶしたような感情を飲み込んで、話を真摯に聞きとめるしかなかった。


「なんで…あいつを頼らなきゃいけないのよ」

「この期に及んでまだ言うのか。俺らにはもう未来がないんだから、仕方ないだろ。あいつにもう一度このパーティーに戻ってきてもらえば」

「でもどうやって」


 仁の連絡先は、パーティーから追放したときに、恵美も剛も消していた。後で泣いて縋られても困ると思ったためだ。


「俺があいつに連絡する」

「え、お前連絡先消してなかったのかよ」

「まぁ、一応元パーティーメンバーだしな」


 もしかしたら、海斗がなんとかしてくれるかもしれない。そんな浅ましい希望を二人は抱いた。


「で、一度会って話し合う約束を取り付ける。それから、三人であいつに頼み込んで、このパーティーに戻ってきてもらう。それしかないだろ」

「…ああ」


 漣は抜けてしまったが、あんな輩はパーティーにのさばらせておく方が恐ろしい。だから戻ってきてもらうのは仁だけだ。


 彼はなんだかんだ言って情に弱い。それに、きっと今頃一人でやっていけず困っているに違いない。


 海斗は仁が戻ってきてくれると確信していた。

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