第11話 けっこう美味しいらしい
「なかなか大人しくならないね……」
「だな」
厄介者は時折首をもたげて威嚇しながら、黒々とした瞳孔を広げてあちこちを見回していた。
「もうちょっと待ってみないことにはわかんないけど」
「いつもこんな感じなんですか?」
「いや、スレートスネークって言ったらそんなに暴れないし様子見するとき自体もあんまりなかったんじゃないかな」
記憶の底から引っ張り出してくると、スレートスネーク相手に苦戦した覚えというものが全然ない。事前準備で疲弊したことは山ほどあった。スプレーが切れたら俺が買い足さなきゃならなかったし罠にかけるときも俺がはってたなあ。
うん、やっぱこの仕事量おかしかったわ。
「あ、倒れたよ!」
「もうちょっと待とう」
急に倒れたからといって最後のひと暴れがないとは限らない。少々待って、痙攣しながら泡を吐くのを確認する。よし。
「奏さん、行こう」
「はい!」
このへんからは刺激が強いけど大丈夫かな。まあ冒険者としてやっていくならこれくらいは慣れてて当然だし、慣れてなくてもこれから慣れてもらわなきゃ無理だよな。
スレートスネークは何度か遠くからつついてみたが、完全に死んでいるようだった。
ときおり痙攣の残骸のような動きはする。しかしもうほぼ目立った動きは見られない。
「じゃあ、解体しますか」
「解体って、そういえばどうやるの?」
「あ、やってなかった感じ?」
「まぁ…うん、そうなるかな。前のパーティーだと」
ほんとにヒーラーしかやってなかったんだな。やっぱりこの人も何かしら闇が見え隠れしてるわ。特殊というか、変わったパーティーだと思う。
「やり方教えてあげるからさ、まずは見てて」
「わかった」
とりあえず、人が抱えられるほど大きな頭は、持ち込んだ鉈を振り下ろして思い切り切断する。
「うわっ」
「大丈夫?」
「ちょっと血がかかっただけ、大丈夫」
「気を付けて」
返り血浴びて平気な顔してる女の子は居ないと思うので、まああんまり大丈夫そうじゃなかったけど、本人の強い希望から解体シーンは余すことなく見せつけることになった。
血抜きをすると、なんともいえない生臭さと獣臭さがあたりいっぱいに広がった。
「次は皮を剥ぐから」
奏さんと協力して、頭を失くした蛇の胴体を転がし、あおむけにする。それを何等分かにしておいて、一切れの腹部に同じく鉈で切れ込みを入れた。
「これをこうする」
ゴム手袋をはめた手でぺりぺりと皮を剥ぐと、綺麗な桃色の肉が露出した。
奏さんにもやってもらうと、割合楽しそうに皮をめくっていた。
「へー、綺麗に剥げるね。すごい」
「ああ。でもこの辺からは業者にやってもらうんだ。一応、今回のスレートスネークは大きかったから、デモストレーション用に解体したけど」
中身は食肉に使われて、結構ジビエ愛好家の中では好評だ。モンスターの素材を扱う料理店に卸したりもするらしい。雑菌とかがつくといけないからゴム手袋をした次第。
皮も骨も余すところなく売れるので、つくづくモンスターとは無駄のない素材だと思う。環境に優しい。
「じゃあ、あとはこれを持って帰るだけだ」
そのとき、なんというか、結構嫌な予感がした。ゴム手袋を外して、鉈をもって、あたりを見回す。
冒険者にはこういう勘が必須だ。説明できない暗黙知で何度も生き残ったことがあるし、もしそういう第六感というものがあるなら、それは大切にしなければならない。
「奏さん」
「なに?」
「来る」
「え」
かなり、大物だ。
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