第6話 この年してアオハルか?

「わぁ、死んでる…」

「もしかしてこういうのって苦手ですか?」

「んー、あんまりやってこなかったので、慣れますね…」


 少し苦々しげな顔をして、奏は言った。


 皮膚が緑色であるように、血液も緑色で、どちらかというと芋虫か何かに近いような気がする。やっぱゴブリンって害虫か害獣かなにかなんだろうな。


「じゃあ耳削いでみる?」

「え、あっ、やります」


 ナイフを手渡すと、意気込んだ。


 ゴブリンの左耳は討伐証として扱われる。これに応じて報酬が払われるので、面倒でも巣を掘り返して耳を刈り取る新米冒険者は多い。


 ただ今回に関しては、チュートリアルのようなものを兼ねて、一緒にやっていけるかどうかの確認だったので、そこまでする必要はない。


「うぇぇ…」

「代わりましょうか?」

「や、やります」


 奏は多分どうもこういうのが苦手なタイプだ。鳥獣の解体とかできないタイプなんだろうな。俺も冒険者始めてからこういうのに慣れたけど、縁がないときついと思う。


 ごり、ごり、と軟骨や骨を削る音が暫く響いていたが、やがてぶつりと耳が剥がれた。


「できました!」

「すごいすごい」


 適当な感じでほめておく。初心者にしては良いんじゃないか。結構抵抗感がありそうなのに我慢してできたのは花丸。


「じゃ、報告に行きましょうか」

「はい!」





 無事ゴブリンを一掃したことを農家のおじいさんに報告しに行ったら、いたく感謝されて、メロンをごちそうになった。多分買ったら英世が何人か余裕で消えるお高いやつだ。

 奏さんはメロンが好物らしく、美味しそうにほおばっていた。うん、控えめに言っても美人だわ。



 後片付けをして、道具は車に積み込んで、あとは帰ってネットで事後報告をするだけだ。


「なんか、楽しかったです」

「そうですか?」

「ええ」


 さぞかし嬉しそうに言われて、ちょっと戸惑った。


「前はそんなことさせてもらえなくて…」

「前?」

「あ、前のパーティーにいたころの話です。いろいろあったんですけど、私はこうやって前衛で何かするってことが認められなかったから」


 なんかこっちもこっちで闇が深そうな匂いがする。まあ俺も相当そうだがな。


「…そうだ。敬語、お互いにやめませんか?別に年もそんなに離れてるってわけじゃなさそうですし、いちいち気を遣うのも面倒かと」


『ホーンラビット注意!』と書かれた看板が景色と共に後ろへ流れていく。車の中はクーラーがきいていて快適だったが、やけに心臓の音がはっきり聞こえた。


「え?ああ、いいですよ」

「じゃあ、タメでよろしく。さん付けもなしで」

「わかりま…分かった、仁…さん…?じゃなくて…」

「ちょっとずつ慣れて行けばいいですよ」


 だめだなこれ。ふつうの男だったら完全に堕ちてる。俺でもだいぶ陥落しそう。

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