第5話 だいたい鳥獣とおなじ
ゴブリンの駆除依頼はよく駆け出しの冒険者の収入源になっている。
とりあえず、俺の車に荷物をつんで、郊外にあるらしいゴブリンの巣まで走っていくことになった。
「そういえば、仁さんって車持ってるんですね」
奏さんは車を持っていないらしい。
そりゃ、普通の人は結構な都市部に住んでいたら、車なんてそうそう使わなくて済むかもしれない。
「まぁ…パーティーに必要だったし…公共交通機関じゃなくて、送迎は俺がやってた」
「……」
奏は黙ってしまった。あれ、なんかまずいこと…言ったな。
また以前のパーティーの酷さの一部を露悪させてしまった。
なんとなく気まずい空気のまま、車を進めて、家々がまばらになり、緑が多く生い茂ってきたところで、車を止めた。
「たしかこの辺だけどな……」
カーナビのマップにはそう記されている。奏さんは連絡して住所も教えてもらったそうだから間違いない。
どこに車をとめたらいいのかわからなかった。駐車場らしき場所はない。
まあ田舎だし、その辺にとめておいてもいいだろう。なんなら聞いて一旦戻ってきて動かせばいいだけだし。
古びた瓦屋根には苔が生えている。ところどころ改築した跡のある家だ。木造建築らしく、田舎の空気を感じる。
ここで間違いないと思うので、引き戸の向こうに声をかけた。
「ごめんくださーい」
「はーい」
出てきたのは年がそれなりにいっていると思われる老爺だった。
少し腰が曲がってはいるが、しっかりとした受け答えや足取りからして、まだ現役だろうなと思わせる。
「若いねえ。ほんとうに来てくれたのかい」
「ええ。冒険者ギルドの依頼ですね。依頼番号は『F2-1335489』で間違いありませんか?」
「ああ、待ってねえ。ちょっと奥の方にあったかなぁ」
一度奥に引っ込んだ老爺は一枚の紙を持ってきた。
それは依頼の受付が終わると貰える受注完了票だ。少し固い紙で、日付や依頼内容は手書き、依頼番号の枠には印字がなされている。
「これかい」
「『F2-1335489』…大丈夫です、合ってますよ」
ランクはF2級。ゴブリンの巣にしてもそれほど大規模なものではない。そもそも参加人数がソロ~三人程度目安だったのだから、推して測るべし、というわけだろう。
「じゃあ、巣の場所を教えてくださいますか?」
「ええよ。案内するわ」
老爺はサンダルをつっかけて、俺達と共に外に出た。
「あんな、あのとうもろこし畑の向こうに林があるやろ。あそこにどうも住み着いてしまったようでなぁ。ちょうど収穫時期だから、困った困った」
よく熟れたとうもろこしばかり引き抜かれていって、被害は大きいらしい。
「ハクビシンやらイノシシやらの方がずっとマシよ。奴らなら対策のしようがある。でも、ゴブリンとなるとなぁ、費用が割高で、いっそ駆除してしまった方がずっと安う済むって話を佐藤さんから聞いてなぁ、依頼したわけよ」
確かに、ゴブリンの駆除は基本冒険者ギルドに依頼されるが、依頼主の払う費用は見積もりの七割だ。残り三割は国の負担で、補助が出る。
その二つで報酬が賄われているのだ。
「分かりました。じゃあ、駆除してきますね」
「あいよ、よろしく頼むよ」
「…これですね」
ゴブリンの巣は分かりやすい。色々な場所に住む奴らだが、よくあるのは「地面に穴を掘って、その穴に住む」というものだ。アリみたいな生態をしている。
巣の入り口には葉や枝がかぶせてあり、注意深く見ればすぐに見つかる。ただし駆け出しの初心者などはこの穴に足を取られて落ちることもあるので、要注意だ。
「あぁ。とりあえず、駆除剤をまいて様子見しよう」
ゴブリン用の駆除剤は、いわゆる手榴弾のような、ピンを外して巣の中に投げ込むというものが主流だ。
ホームセンターでそこそこのお値段で買えるので、農家の中でも逞しい人は自力で駆除しているだろう。しかしほとんどの場合は専門家――つまり、冒険者だ――に頼ることが推奨されているし、万一のことがあったらいけないので、自分で行うことは勧められていない。
子供一人が入れそうな穴の表面の、葉や枝を取り払い、ピンを外して中に駆除剤を投げ込んだ。
「ゴブリンの駆除ってこうやるんですね」
「あれ、したことない?」
「はい。私、途中でパーティーに入れてもらったものですから、こういう初歩的なランクの依頼ってこなしたことないんですよ」
「そうなのか」
相当腕がいいヒーラーと見たが、そんな事情があったとは。
中で爆発音が聞こえてから、暫くして、緑色の手が天蓋を突き破った。
「来た。奏さんは下がってて」
「はい!」
戦闘未経験の初心者をはじめから出すのはいただけない。とりあえず、今日のところは俺がまず初めにやる。
すすけた緑色の、小柄な体躯を現したゴブリンは、俺達を見るや否や襲いかかってきた。
「させるか」
かぎづめでの攻撃を少し左によけ、あとは単純なナイフで頸椎を損傷させたら勝ちだ。
首を完全にもいでおかないと、生命力がバカにならないため、復活する場合がある。しっかり、頭と胴を分離させておけば、完成だ。
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