第8話 そういう方
帰り道にホームセンターで軽く道具を購入することになった。
天井からつり下がった「モンスター対策」というプレートの文字の主張がやけに激しい。棚には様々なタイプの対策グッズが売っているが、これで案外攻撃になるというのを知ったのは、オレがパーティーの財布を管理している立場の人間だったからだと思う。
「ホームセンターでもいろいろ売ってるんで…だね」
「そう、だな。うん、この催涙スプレーとか万一の時にはおすすめ」
二足歩行系によく効くので俺も駆け出しのころは珍重していた。
「でも専門店とかじゃなくていいんですか?ホームセンターで」
「ああ、専門店の方が一応モノは良いんだけどさ…ホームセンターの方が圧倒的に安いんだよ」
実は対策グッズや攻撃用品の専門店で買ったほうが品ぞろえは豊富だし、質の良いものが手に入りやすいのだが…高い。いかんせん高い。高いのだ。
財布のひもを締める立場の俺としてはお値段も購入の見当に入れなくてはならなかった。
それに、低級~中級はもちろんのこと、上級の一部でさえ、パーティーならモンスター対策グッズだけで十分に渡り合える場合がある。
その旨を奏さんに説明すると、いたく驚いていた。
「知りませんでした…ホームセンターで買えちゃうんだ」
「まあな。割と知られてないみたいだけど」
「仁さんってすごいなあ」
「いや…パーティーの財布を管理してたから、節約に関しては目がないだけで」
そういうと再び気まずさをまとう沈黙が間に流れた。やってしまった。
前パーティーの話題を出すとこういう空気が流れるのであまりやらないほうがいい、と分かっていても、つい口を滑らしてしまうのが悪い癖だ。
「あ、あの、じゃあ、この辺だったら、なにがおすすめですか?」
「虫系のモンスターだったら、これがいいな」
俺は「殺虫団子」と書かれたパッケージを手に取った。
「なにそれ?」
「これを一つにまとめて虫系の大型モンスターに食わせるといいんだ。あと、巣に持ち帰ってくれたら尚いい」
なにも冒険者業というのは派手な花形の仕事ばかりではない。地味に何日もはりこんで行う仕事だってやまほどあるし、一旦離脱して別のクエストをこなすこともある。むしろ一つの依頼に集中して行わない場合の方が多いくらいだ。
タイタンアントの時はこの団子を何個もまとめて大きくしたものを巣の近くに置き、それが巣に運び込まれて、巣の中で犠牲者を出すまでは別の駆除依頼をこなしていた。
「そんな戦い方があるんだね…」
「卑怯様様ってところだよ。まあ、どうしてもやらなきゃいけないなら戦うけど、できれば戦わずして倒すのが最適だな」
「たしかに!」
冒険者は死亡率の高い職業だ。それでも目指す者は後を絶えないが、不慮の事故で死ぬことも、まったく理不尽に死ぬことも沢山ある。つい数日前まで一緒に仕事をした仲間が死ぬ可能性も十二分にあるのだ。
確実に勝てそうなモンスター以外は、できることなら戦闘は最終手段で、後はどうやって戦わずに勝つかが重要だと俺は思っている。
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