第20話 こういうところが普通とは違う

「仁さん、あれ…」

「同じ冒険者だ」

「なんか、様子がヘンじゃない?」


 異変に気付いたのは、俺も奏さんもほとんど同時だった。そう変わらない景色に退屈していた精神が引き戻される。


 同業者らしきその冒険者たちは、皆で輪をつくって地べたに座り、何かを話しているようだった。こちらに気づいた様子はない。


「まぁ、情報収集だと思って、声かけてみよう」


 とりあえず何があったのかを聞き出すことにした。先達の言葉は無下にしたくないし、おかしな様子があるなら、調べて損はない。

 近づくと、声をかける前に、全員が振り向いた。


「あの」

「ああ、冒険者の方ですか?」

「あ、はい。そうです。なにかありましたか?」


 真っ先に口を開いた男性はうなずいた。


「悪いことは言いません。この先には行かない方がいいですよ」

「それはどういう?」

「ギルドの調査で発見されていなかったモンスターが現れたんです」


 別なメンバーらしい、セミロングの女性が答える。

 冒険者ギルドは、大型のダンジョンに冒険者を派遣し、定期的にモンスターや生態の調査を行う。何かしらの異変があれば、そこで突き止められ、対策をとることになるのだ。


 稀に、ギルドの決定したランク外の強力なモンスターが現れたり、著しく生態系が崩れたりするときがある――そういうときは、通常、封鎖対象になるはずだが。


 今回はそうではなかったらしい。

 ギルドの調査も完璧ではない。


「つい2、3週間前に終わったばっかりですよね、定期調査って」

「そうなんですよ。そこで発見されなかったのか、それとも調査後に発生したのか…分かりませんが、レッドタイガーが出まして…」

「レッドタイガー、ですか」


 レッドタイガーはジャングータイガーの亜種だ。モンスターの詳しさにおいてはそこそこ自信がある。

 密林に生息するトラ…によく似たモンスターで、レッドという名の通り、毛が赤みを帯びている。もちろん人間がまともに戦えば結果は火を見るよりも明らかだ。


 通常は魔法を使うか、戦闘用の装備をして挑むものだ――しかしこの「初心者向け」ダンジョンにおいてそんな用意をしている挑戦者はいないだろう。


「…失礼ですが、パーティーのランクは?」

「Cランクです。去年結成したばかりで」

「ああ、そうなんですか」


 やはり、と思う。Cといえば駆け出しと中堅の間くらいのレベルだが、だいたい、このダンジョンに挑むのはCくらいまでの層が多い。


 場合にもよるが、レッドタイガーは上級モンスターだ、おもにAランクパーティーややBランクパーティーが相手どる。それも複数人でかかってようやく勝てるくらいの。


「面倒なことになったね…」

「そうだな。でも引き返すには惜しいしな」


 それに、こちらには一応策がある。策というまでもないかもしれないが。


「俺たちはこれから帰る予定なんですが…あなたたちは?」

「まぁ、ちょっと行ってみようかと」

「いやいやいや、駄目でしょう!?レッドタイガーですよね?あの、お二人だけで…?」


 男性二人、女性二人の計4名のパーティーだったが、彼らはなんとか大した傷は負わずに撤退できたとのことだった。レッドタイガーに見つかってそれなら運がいい。最悪命を落としたり、致命傷を負ったりしてもおかしくなかっただろうに。

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