第18話  もう病気か何か

 しばらく上を目指して歩いたが、数階層を上がっても、特段変わったことは起きなかった。


「あれ、ここ池が広がってる…!」

「本当だ」


 覗き込むと、少し濁った水底に魚が泳いでいる。これも食べられるものと食べられないものがはっきりと分かれているので要注意だ。


「そろそろなんかお腹空いてきたねえ」

「そうだな」

「ご飯にしましょうか?」

「うん、それがいい」


 深夜とはこう、どうして腹が空くのか。

 今は、来る途中コンビニで買ってきたおにぎりだとか、パンだとか、そういうものを食べるには一番背徳感のある時間帯だろう。


 俺はその場が濡れていないのを確認して、リュックを降ろす。座った。


「えーっと…なんか色々あるなあ」


 ツナマヨおにぎり、おかかおにぎり、メロンパン、などなど。この時間帯に食べるとなるとためらわれるラインナップばかりだった。


「あ、私ツナマヨおにぎりで」

「そういえばこれ奏さんが好きなんだっけ?」

「はい。大好物です」


 彼女におにぎりを渡す。美人は笑顔も結構な値打ちがつきそう。それに比べて俺は…まぁ、ノーコメントだ。


 俺は自分で買ったあんパンをもそもそと咀嚼し、お茶を飲んだ。こういうところで食べるものってやたらとうまい。この現象にだれか名前をつけてほしい。


「お腹も膨れたし、再開しよう」


 立ち上がって伸びをする。そろそろ階段が見えてきた。



 いかにもな熱帯雨林であるのに対し、この階段はビルの鉄筋コンクリート造りが剥き出しになっていて、ほかの部分とはまるで違う。生い茂った緑色と違って、ここの灰色だけがいやに目立っている。


 ダンジョン内部は一層一層がビルの一階よりもはるかに広い構造になっていて、歩くだけで軽い運動になる。これもダンジョンの不思議の一つだ。外側から見た空間より、内部空間が拡張されているのだ。


 階段を、たん、たん、と上がると、次の層が見えてきた。


「変わり映えしないな」

「そうだね。こんなものなのかな」

「普通のダンジョンもこんなもんだしな」


 たいてい、ダンジョンというのは景色がほとんど変わらない。特殊な階層であれば、目を引く変化があるものだが、九割以上は同じような構造で占められている。


 配信中でも飽きられないような喋りを身に着けるのは時間がかかったけど、最終的にはまぁまぁ喋れてたんじゃないかと思う。他のメンバーには出しゃばりすぎって怒られたが。

 沈黙が続くのって商売に際してはあんまり良くないと思う。


 五人もいればそりゃ少しは会話で持つけどさ、だんまりが続くと沈黙を破るのはいつも俺だった。


 …またあいつらのことを考えてしまった。駄目だ。今はこっちに集中しないと。

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