第34話 そりゃ一人で行かせるなんて出来ねえに決まってる

 なんというか、もう、腹いっぱいであまり思い出したくもない。かけられてきた電話は海斗からのそれで、内容はというと、「こっちに戻ってきてくれ」っていうもんだった。


 いや、どういうことだよ。でも話を聞くに相当困っているらしい。

 漣が抜けた分、更にシステムがガタガタになってるっぽいぞ。まぁ、あの中で一番話が通じそうな奴って漣だったしな。その次が海斗。


「どうするか…」


 正直、迷っている。ただ、俺は今もう奏さんとバディを組んでいるのだから、彼女の意向を聞かなくてはいけない。何であろうと。

 少し消耗したものの、奏さんに電話をかけた。


『もしもし?仁さん?』

「あ、奏さん。あの、ちょっと、話したいことが…」


 話すほど自分の中でも整理がついていなくて、ぐちゃぐちゃにこんがらがってしまったが、奏さんは真摯に耳を傾けてくれた。


 特に口をはさむこともなく、最後まで話し終わったら、一言言われた。


『じゃあ、会おうって言われたんだ?』

「ああ、そうだよ」

『仁さん』


 真面目な声音だった。


『私も同席していい?』

「え、ああ、まぁ…」

『あと、私が来るってことは、その人たちに伝えないでほしい』

「なんで?」

『あのさ、仁さん』


 奏さんが説明するには、俺は多分一人で行ってしまうと、強引に連れ戻されるとか、気持ちが揺らぐとか、そういうことがありそうな気がするから、とのことだった。


 なるほど。まぁ、普通に当たりすぎてて笑えない。それに一人で行くよりはずっといい。正直、一人だけだと心細いものがあった。

 万一奏さんを差し置いてあいつらのところに戻ってしまったらと考えると、そんなことがあってはならないなと思う。


 あと、あいつらを見るたびに、自分の過去の失敗を掘り返されているみたいで…まぁ、要するに黒歴史みたいなもんだった。


 中学生の時に書いたノート的な存在だわ。うん。


 ぶっちゃけ、俺はもう関わりたくない――んだが、今海斗があれだけ必死に頼んできたことで、ちょっとそれは揺らいでいる。

 戻ってやった方がいいのだろうか。いや、でも今の俺は奏さんの方が大事だし。


 待てよ?

 戻らなくても、多少協力しながら…っていう方法も、あるかもしれない。

 …そこは要検討…じゃなくて。

 駄目だ駄目だ。考えるほど思考が絡まり合っておかしくなる。

 なんで悩んでんだよ、俺。どう考えても行く必要なんてないだろうが。やっぱりどっかおかしいのか?ほんと、我ながら嫌になるわ。


『それから、会うまでにはその人と連絡取らないでね』

「分かったよ」

『うん。じゃあ、よろしく』


 彼女は俺を心配してくれているのだろうか。なんとなく思った。

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