第13話 人は矛盾の塊なのでしょうがない

「なんか、疲れたぁ」

「だな」


奏さんがぐっと伸びをする。森林のすぐそばにある自販機は、ところどころ蜘蛛の巣が張って、土ぼこりで汚れている。ただ、きちんと稼働はしていた。百円玉を入れて缶コーヒーのボタンを押すと、ちゃんと商品が出てきた。


古ぼけたベンチに座って、セミの鳴き声にまぎれ、息を吐く。

カシュ、という音と共に、缶コーヒーのプルトップを持ち上げ、開封する。冷たさと共に、苦味と幾分かの酸味が喉を通り抜ける。


「うまい」

「仁さんってコーヒーのめるんだね」

「え、逆に奏さんは飲めないの?」

「恥ずかしながら……」


割合子供舌だったらしい。


俺はポケットからスマホを取り出し、依頼完了の画面を開いた。


「それにしても、めちゃくちゃ儲かったよな」

「シャオートスネークがいたから、かな?」

「まぁ、そうかもしれないけど…これ、丸々二人で山分けだろ?」


依頼料20万円、と書かれた詳細。


「パーティーの活動資金に回す分もあるけどさ、でも日当に換算して何万円かだよなあ……」

「仁さんってBランクパーティーに所属してたんだよね?」

「ああ。でもこんなにもらえたことなんてなかった」


あの頃は全然儲かってなかった。そもそも一回の依頼がこれだけだとしても、パーティーメンバー全員で分けるものだから、俺の手元にはそれほど残らない。というより、パーティーの給与が出来高制で、メンバー全員に平等に配られるわけじゃなかったし。

俺は特に少なくて、他のメンバーの二分の一とか三分の一とか、そういう時がよくあった。


それだけじゃ食べていけなかったからバイトも掛け持ちしてたなあ。よく体壊さなかったよ。

しかも給料は税金やら社会保険料やらで天引きされて、結局手取り額はもっと少なくなる。悲しいことに。


その話をすると、奏さんは顔を曇らせた。


「…やっぱりそのパーティーって抜けて正解だったんじゃない?」

「そう思う?」

「めっちゃそう思う」


激しい同意が得られた。奏さんは真剣な顔で頷いていた。


「それやっぱり『ブラックパーティー』ってやつじゃないかな」

「あー、あれな。ブラック企業の亜種みたいな」


そうホイホイと新しい言葉を作り出す世間には驚きを禁じ得ないけど、ブラックパーティーという概念があるのも確かだ。


不当な給与、長時間労働、搾取、パワハラモラハラ、様々な問題を抱えているパーティーのことを、企業になぞらえてそう呼ぶらしい。俺も知ってた。



…そしてそれが俺のケースに当てはまるというのは、最近自覚した話だった。いけね、またやっちまった。この話は奏さんにはあんまりしないようにって思ってたのに。


「でも、今頃あいつら何してるんだろうなあって、最近心配になってくるんだよ」

「え、大丈夫ですか?そんなにひどいことされたのに?」

「なんでだろ。わかんないけど、なーんか心配なんだって」


もうここまでくると病気の域を疑いたくなるくらい俺が善良なんじゃないかと思う。搾取され慣れてしまった感がある。怖い。あんなに憎んでいたのに心配でもあるし、なんなんだ一体。

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