第31話 真の強さ

 五層に向かっている間、魔物は全て彼女が倒した。


 レナや冬ちゃんの強さも中々のもので、俺では到底できない一瞬で魔物を倒していた。


 初めてそれを――――上回るかもと思えた強さだった。


 あっという間に五層に着いた。


「さあ! ここから勝負よ! 誰が魔物をより多く倒すか勝負よ!」


「分かった」


「じゃあ、スタート!」


 彼女の合図で一緒に走り出す。


 コメントは『英雄殿頑張れ~』と『爆炎乙女やっちゃえ~』で二分している。


 ここに来るまでの間、妹から情報提供があったけど、彼女は色んな人に魔物を倒す勝負を仕掛けているようで、配信は行わないけどリスナーたちには有名人みたい。


 最初に対峙するのは緑色のゴリラ魔物。


 少し離れた場所の彼女は自分の獲物を一瞬で倒していた。


 俺も戦いを開始する。


 双剣で斬り付けながら俺を狙った攻撃を横ステップで避ける。


 魔物を集めていた頃もできるだけ避ける練習を続けてきた。


 たった数日かもしれないけど、多くの魔物の攻撃を避けるのはいい練習になったと思う。


 その甲斐もあって、緑ゴリラの攻撃は余裕をもって避けられるし、隙間に攻撃を叩き込める。


 数十秒戦いが続くと、隣から視線を感じる。


 彼女はジト目で俺を見つめていた。


「英雄って聞いてたのに、そんなもんなの?」


「…………」


 知っているつもりだ。


 自分がレナたちと一緒にいることで強くなった・・・・・と錯覚してしまう。


 魔族との戦いのときも、【金剛支配者】が強いのであって、俺が強いわけではない。


 せめて――――【追加固定ダメージ】さえ強くなったら……と思ってしまうけど、何かに頼るのは結局自分の力ではないよな。


 思い返すのは、弱い自分に向けられる野次の数々。


 気にしてはいなかったけど、気分がいいものではなかった。


 暗黒獣の一件は、俺じゃなくレナのおかげだ。それでリスナーたちも優しくしてくれて、みんな応援してくれていた。


 彼女がいなくなることで、自分がどれだけ小さいのか再確認できた。


 一人で難関ダンジョンをクリアする彼女に勝てるはずがないって。


「な~んだ。所詮は虚像の英雄だったんだ……」


 彼女はつまらなさそうにまた魔物を狩り始めた。


 爆炎を操って魔物を次々消し炭にしていく。


 見ているだけでワクワクするくらい、清々しい強さだ。


 コメントは彼女のことで一色となった。


 あの頃も妹がベッドから見守っていたっけ。いまもそうだな。


 俺はただただ目の前の敵をできるだけ懸命に倒し続けた。



 ◆



 三時間後。


「もう私の勝ちでいいよね?」


 ジト目をした彼女がそう問いかける。


 結果は見るからに明らかだ。もちろん、彼女の勝ちだ。


「そ――――」


 その時、ひときわ目立つコメントが横切る。




『英雄が参ってないのに勝ち宣言してて草www』




「くっ……! いいわよ! 心折れるまで相手してあげるんだからっ!」


「待っ――――」


 止めようとした時には既に走り出して戦い始めた。


 彼女は潜ってから三時間も経過している。


 それ以上潜ったら、普通は瘴気に体調が一気に悪くなるはずだ。


『配信乙~』


 無数のお疲れコメントが流れる。


 配信をしてもう六時間も経過しているんだ。


 そして――――配信用カメラが配信終了を知らせて、探索者ギルドに帰っていった。


「美紅さん! そろそろ終わりにしよう!」


「わ、私は……まだ……負けないわ……っ!」


 明らかに動きが遅くなっている。


「まさか……! 俺達が配信開始した頃からダンジョンに!?」


「と、当然……でしょう……あんただけ……瘴気症に…………フェアじゃない……から……」


 つまり、彼女は六時間近くダンジョンに潜っていることになる。となると、入口で出会った時から既に体調が悪くなり始めていたことになる。


 それを全く感じさせないくらい三時間の動き。


 彼女の本当の強さ・・・・・を理解した気がした。


 誰よりも努力して、強い力だからやっかみを言われても、それを気にすることなく自分を鍛え続けてきた彼女の姿が見える。


 それは――――レナだってそうだ。


 強いからといってそれに怠けない。彼女たちの真の強さとはそういう部分だと思う。


 緑ゴリラの拳が彼女に振り下ろされる。


 瘴気による体調不良によって、その場に跪いて動けない。


「っ!?」


 彼女と緑ゴリラの間に割り込み、拳を後ろから受け止めた。


 辛そうな表情で見上げる彼女に、あの日のレナが重なって見えた。


「もう帰ろう? みんな心配していると思うから」


「どう……して…………」


「悪い。俺の攻撃力だと倒すのに時間がかかるから、そのまま倒してもらえるか? 俺ごと巻き込んでいいから」


「そ、そんな……」


「俺の強さは――――硬さにあるから。大丈夫。俺を信じて」


「…………うん」


 辛そうな彼女が放った爆炎が俺を飲み込んだ。

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