第4話 スライムを倒し続けて三年


 Eランクダンジョンに通ってから二年が経過し、三年目がやってきた。


 今日から覚悟を決めて三層にやってきた。


『三層おめでとう~応援ボタン押しておくぜ!』


「応援ありがとう!」


 段々受け答えもできるようになったし、何だか友達ができたみたいで楽しい。


 最初こそ妹に配信を見せるためだけだったのに、今はコメント越しではあるがリスナーと会話するのも楽しい。


 三層の魔物は、またスライムだった。ただし、赤いスライムだ。


 さっそく戦い始める。斬った感覚から頑丈さも増しているし、動きも速くなっている。


 すれすれで避けられるが、油断できない状況だ。


 何度も斬り付けて、赤スライムを倒すのに三十回も斬り付ける必要があった。


 探索者情報ネットで探索者について調べた時、レベルが上がるとステータスが上がり、どんどん強くなっていくと聞いたことがあるんだが……8にもなって強くなった感覚はあまりない。


 レナさんのおかげで動きはよくなったが、攻撃力が上がってる気がしない。


 レベル8で『追加固定ダメージ1』が『追加固定ダメージ2』に上がった。それだけ。


 一番弱い水色スライムも体力は体感で二桁を越えるので、レベル8になっても倒す速度は半分くらいになっただけで、大きく強くなった感覚はない。


 二体目の赤スライムと戦っていると、油断したわけじゃないが、攻撃を受けてしまった。


 久しぶりにスライムに吹き飛ばされて尻もちをつく。


『久しぶりに飛ばされたなww』


「本当に久しぶりだよ……こうならないように気を付けなければ!」


 また気合を入れて赤スライムとの戦いに集中する。


 その日、十体の赤スライムを倒した頃、俺は全身汗だく状態だった。



 ◆



 九か月後。


 レベルが8から16となり、『追加固定ダメージ3』に上がったが、大した効果は期待できずにいる。


 今日から四層に向かうと豪語している。


 その時――――一人の女性が俺の前にやってきた。


「ユウマくん」


「うわあ!? レ、レナさん!?」


 約一年半ぶりに会う。


「これ、あげる」


 そう言って俺に棒を二つ渡したレナさんは、その足で「余ったものだから使ってね。じゃあね」と言って凄まじい速度で俺の前から去っていった。


 台風のように現れて台風のように去る。


 渡されたものを見下ろすと――――まさかの二振りの短刀だった。いや、短刀よりもう少し長いが、刀ほど長くはない。


 二振りあるってことは、双剣……? 俺に双剣を使えというのか?


 彼女からは動きの助言をもらっている。彼女が何の意味もなくこれをくれたわけじゃない。きっと双剣を使えということなんだ。


 まだ一層だし、水スライムで試し斬りをしてみよう。


 人生初、双剣を構える。


 うん。不思議と手に馴染んでいる気がする。


 今まで大きく避けていたけど、極力ギリギリの距離で避けながら左右の手を交互に斬り付ける。


 今まで水スライムを倒すだけでも時間がかかったのに、一瞬で倒せた。


 まさか…………配信を見ていて四層に向かうのを知って渡してくれた…………?


 いやいや、レナさんのような上の人が見ているはずもない。たまたま偶然だ。


 俺は人生初、Eランクダンジョンの四層に足を踏み入れた。


 四層の魔物もスライムで、黄色いスライム。


 どうやって攻撃してくるのかなと思ったら、まさか全身がバチバチと音を立てると、サッカーボールくらいある大きさの雷玉が放たれた。


 急いで避ける。雷玉の速度はそう速くないので、難なく避けられそうだ。


 一気に距離を縮めて連続斬りを与える。その間も雷攻撃や突撃をしてくる。


 今まで無駄に大きく避けていたのを、ギリギリの距離で避けているので攻撃に余裕が生まれている。


 レナさん…………また俺に新しい気付きを与えてくれて本当にありがとう。いつか……このお礼をしたい。



 ◆



 三か月後。


 遂にレベルが20になった。


 正直、この三か月はとても速く、楽しかった。双剣が手に馴染みすぎて驚くくらい楽しい。


 今日は四層を越えて五層にやってきた。


『ユウマさん~五層おめでとう~!』


『五層のスライム強いから気を付けろよ!』


『がんばれ~ユウマさん!』


 最近はますます温かいコメントがきて嬉しい。


《視聴者数:103人》


 気が付くと、リスナーの数が三桁を突破した。


 五層の魔物は、やはりスライム。今回は黒いスライムだ。


 次の瞬間、黒スライムの体から四本の触手がドリルの形になって、とんでもない速度で突撃してくる。


 急いで双剣で払いながら戦い始める。


 三層までなら吹き飛ばされるくらいだったのに、四層からスライムが凶悪になった。


 とくに黒スライムのドリルは、当たったことがなくても絶対に危険なのが分かる。


 ドリルは意外に短くて何とか避けながら倒すことができた。


 そして――――俺の前に黒スライムではない不思議なスライムが現れた。

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