第20話 悪の末路

 最前線から退いていたとはいえ、伊吹議員の身体能力は俺を遥かに凌駕りょうがするものだった。


 机を蹴り飛ばして、目にも止まらぬ速さで俺の腹部に拳を叩き付ける。


 バーンと凄まじい音が鳴り響く。


 一般人なら一撃で二度と目を覚まさなくなるんじゃないかってくらい、強烈な攻撃だ。


 それを躊躇ちゅうちょせずに繰り出せることに彼の本心が見えるようだ。


「なっ!?」


 【金剛支配者】のおかげで、彼の攻撃は一切効かず、そのまま彼の服を掴んで投げ飛ばす。


 投げ飛ばされた彼は空中で体勢を整えて着地した。


 レナから教わった通り、強い人達はまず体幹が強い。体を動かす上で体の重心がぶれないことが何よりも大事だと教わった。


 それを物語るように、彼が殺気めいた視線で俺を見つめる。


「……? 今の感触。普通の体じゃないな。スキルか? 今まで多くの犯罪者・・・を捕まえてきたが、これまで硬い奴は初めてだな」


 指を動かしボギッボギッと音を立てて、彼の指が俺の喉に向かって飛んでくる。


 昨晩教わった彼の武術は、人を捕縛するより倒すものだと教わった通り、ツボを狙った攻撃だ。


 左手が喉に当たると同時に俺も全力で腕を振り上げて彼の腕を叩き付けた。


「くっ!?」


 【金剛支配者】は純粋なステータスの絶対防御力が上昇する。肌が強くなるのではないので、ツボや弱点となりうる場所全てが頑丈・・になっているのだ。


「き、貴様……人間か!?」


「ええ。貴方よりは人間であるつもりです」


「ちっ!」


 今度は俺も攻める。


 身体能力では絶対に勝てない。ただ、ここがかなり狭い部屋であることが、逆に仇となっている。


 きっと外と中で音が断絶・・・・しているはずで、もし何があっても彼一人で俺を抑えられると踏んでいるだろう。それくらい彼の身体能力は強いから。


 もし刀を持ったレナがいるならレナには敵わないだろうけど、素手ならレナでも負けるという。


 ここ数年、ずっと体の重心を鍛え続けてきた。それもあって、今の俺はわりと――――それなりに速く動ける。もちろんレベルが上がったからでもあるが。


 ガードしている彼にそのまま殴り付ける。


 攻撃力自体は大したことがないけど、生身・・に対しては頑丈さで殴れるので、相当痛いはずだ。


 何度も殴り殴られを繰り返す。


「負ける……俺様が……負ける……だと?」


「今まで多くの人を傷つけてきたんですから、ここで観念してください!」


「俺は――――負けん!」


 全身にオーラが灯り、凄まじい衝撃波が放たれる。


 壁ごと破壊されて大きな穴が開いた。


 彼は三階にも関わらず、外に飛び込んでその場から逃げ去った。


「リサ! あとはよろしく!」


「あいっ!」


 すぐに扉が開いて、警官達とレナ達が入ってきた。


「ユウマくん!? 大丈夫!?」


「ああ。問題ないよ。それより逃がしてしまった」


「君! これは一体何事かね!」


 驚いた警官に経緯いきさつを簡潔に伝えた。


「そ、そんなバカな……」


 警官達は慌てて事態を収拾しようとして慌て始めた。


 しばらく事情を説明して、警察には彼が今まで持ってきた資料を全部渡した。


 事実かどうか確認には時間がかかるだろうけど、きっと冤罪の人々は釈放されると思う。


 こうして、伊吹くんと彼の父を巡る事件は一旦収束した。



 ◆



 暗い路地。


 そこには荒れた息を吐く男がいた。


「ありえん……ありえん! 俺様が負けただと!? あの資料が世に出れば俺は終わりだ……どうしたらいいんだ……何か方法は? 警察長官を動かすか? だが……あいつの正義ヅラが納得しまい…………一体どうしたら……くっ……」


 痛む左腕を抱えて怒りに震える男。


 その時、路地に一人の男性の声が鳴り響く。


「これはこれは、伊吹議員じゃありませんか」


「なっ!? ど、どうしてお前がここに!?」


「やだな~たまたま歩いていたら、慌てる貴方が見えたものですから」


「俺が見えた!? ふざけんな! 俺は路地裏を歩いてきたんだぞ!?」


「くくっ……そりゃ――――お前さんがここに来ると知っていたからな」


 彼は上に指を刺す。


 そこには一台のドローンが自分を撮影していた。


「それは……なんだ? 配信カメラ用の魔導ドローン? どうしてそれがここに……?」


「貴方を追跡していたんです」


「ありえん! 俺は配信を選んでなどいないぞ!? 魔導配信ドローンが許可もなく人をターゲットに動くことはありえん! そんな技術聞いた事もない!」


「ええ。貴方の言う通り、魔導ドローンは自分を映す許可を出した人だけを追います。そのドローンも全く同じものです」


「ならどうして……」


「あれ――――実は有人・・なんです」


「はあ!? ありえん! 魔導ドローンを操作できる人間がいるわけないだろう!?」


「そう思われてましたね。ですがいたんですよ。世界にたった一人・・・・・


 そう話した直後、白髪の男が動き始める。


 男に一気に近づいてきた白髪の男の鋭い視線が男を睨む。


「貴様によって冤罪にされた人々の報いを受け入れろ」


「やめろおおおおお!」


 男よりも遥かに強力・・・・・なパンチが腹部に叩き付けられ、一撃で男は白目をむいて気絶した。


「…………本当ならダンジョンに捨てて魔物の餌にでもやりたいくらいだが、あとは法の裁きに任せるとしよう」


 白髪の男は上空を静かに飛んでいるドローンに顔を向ける。


「リサ殿。今回の一件、とても助かりました。報酬も期待していてください」


「いいえ~報酬がほしかったわけではありませんので、それを魔石研究開発部に回してください!」


「はは……どこまでも欲のない兄妹ですな。その件はまた今度」


「はいっ! では後はお願いします~」


 ドローンからは可愛らしい声が聞こえ、そのまま空に消えていった。


「がーはははっ! 魔導ドローンをここまで自由自在に使いながら、同時にどこにでもハッキングする能力か。兄も大概たいがいだが、妹も凄まじい才能だな。さて…………彼らの上司・・として後片付けに尽力しようじゃないか」


 白髪の男がどこかに電話を入れると、程なくして黒い車が現れ、SP達によって気絶した男は逮捕された。





――――――――――――――――――――

 【ひとこと】

誤解ないように設定を一つ記入しておきます。

警察が悪い事をしていた。のではなく、伊吹議員一人が自分の権力を使い、全て企んでおります。なので、他の警官達は大変驚いているところです。

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