第21話 決着
伊吹議員との一件から三日。
レナの意見でダンジョン配信は早めの昼飯を食べてから、丁度昼休みに合わせて配信を開始して三時間おこなうようになった。
時間変更になってから三回の配信を終えて、アジトに集まっていると、リサがおもむろにテレビを付けた。しかも、空中映像。
驚くことにリサがいつも座ってるコンピューター搭載型椅子は、映像や画像を空中に表示する能力まで持っているらしい。しかも、妹と脳波で繋がっていて、遠くからでも遠隔起動や操作が可能のようだ。
映し出されたのは、緊急ニュースだった。
「こちらは伊吹議員の裁判所の前です! かつて【英雄】と呼ばれた彼が裏で冤罪をでっちあげていたことに驚きでございます!」
この三日間、警察に渡した資料の検証が進み、たった数日で裁判になったのは、彼の冤罪によって悔しい思いをしている人々のためでもある。
「結果が出たようです…………有罪! 有罪判決でございます!」
裁判所の外にも大勢の人がいて、歓声を上げる人、彼を信じて支持していた人の悲鳴が鳴り響く。
「どうやら彼は全ての罪を認めたようです! これによって冤罪の人々が今日中には釈放されることになりそうです!」
事前に聞いていた通りの流れになった。
俺とリサは顔を合わせて軽めにハイタッチをした。
「冬ちゃん。色々助けてくれてありがとうね」
「いいの。これも私の仕事の一つだし。これで【英雄】がより先輩に向いてくれると、おじいちゃんも助かるって言ってたのもあったからね」
みんな俺を英雄と持ち上げるけど、俺自身はそんな凄くもなんでもないんだけどな……。
「あ~先輩。リサちゃんが報酬を断ってるから先輩がもらってくれっておじいちゃんから」
「報酬……?」
「ほら、社会の悪を成敗した者に報酬は必要でしょう?」
「いやいや……ここを用意してくれただけでも十分すぎるよ?」
今の心配は食費くらいだが、家賃がかからないので十分間に合っている。しかもBランクダンジョンを攻略するようになって、その心配もない。
何もかも順風満帆なので報酬はいらないかな……。
「ん~じゃあ、その報酬というのは、魔石研究開発部に回しちゃおう」
すると、何故か冬ちゃんがポカーンと俺を見る。
そして大きな溜息を吐いた。
「はあ…………その妹にその兄ってね」
「???」
「リサちゃんも同じ事を言ったから、先輩にもらってって言うんです! 先輩のバカ!」
「ば、バカ!?」
「いいですか! 二人とも! 自分達がどれだけ大きなことを成し遂げたのか自覚が足りません! ちゃんと自分達のための報酬をもらいなさい~! これは冬様命令です~!」
「「は、はいっ!」」
何故かぷんぷんと怒る冬ちゃんに恐れをなしてしまった。
「リサ? 何かほしいものある?」
「ないかな…………ん~」
悩んでいるリサがふとレナをじっと見つめた。
レナは刀の手入れをしていた。
「あ~! あれほしいかも!」
「えっと……レナの刀? か、刀が……ほしいの?」
リサがジト目で俺を見る。
「刀じゃないの。ここ数日、探索者について色々調べてみたけど、探索者って特殊な防具や武器――――マジックウェポンなどの魔装備があるの。それがほしいかな!」
「なるほど! 以前咲が言っていたものか!」
「冬ちゃん。
「えっ……? パーティーの?」
「うん。みんなが強くなれたらお兄ちゃんのためにもなるから、お兄ちゃんとレナお姉ちゃんと咲お姉ちゃんと冬ちゃんの魔装備でお願いします!」
「分かった。おじいちゃんにそう伝えておくね」
冬ちゃんはすぐに電話で離れた。
「そういや、咲の補助魔法って不思議だよな」
初日二日目はアタフタしていたけど、ここ三日間の狩りでメンバーの力が段々分かってきた。
レナの刀術は言わずもがな業界で最強クラスの攻撃力を誇る。
冬ちゃんの身軽な体術も凄まじく、レナ曰く一対一で戦ったら負けるかもと言っていた。動きからどこか忍者やくのいちを想像させるものがあった。もちろん、速度だけでなく、効率いい攻撃は、弱点を的確に突いていた。
咲に関しては本人も言っていた通り、付与術師の中でもそんな凄い人ではないらしい。
レナと冬ちゃんに対する補助魔法は、あまり変化はなく、掛けないのとそう変わらなかった。
でもどうしてか、俺にだけ非常に
「あはは……私の付与術はあまり役に立たないね……」
「いや、それは違う。レナと冬ちゃんにはあまり効かないかもだけど、俺はものすごく助かってる。正直……ヘイストがないと生きていけない体になっちゃったよ……」
咲がクスッと笑う。
「はい。これ!」
リサが一枚の紙を取り出した。
テーブルに置かれた紙をみんなで覗く。レナも気になったようで一緒に覗き込んだ。
俺にぴったりくっつくくらい近づいてきたレナからは、甘い匂いがした。
「えっと……みんなが強くなる幅?」
そこにはメンバー全員の名前と魔法それぞれが表になっていて、数値と秒数が書かれていた。
「すごい! みんながどれくらい強くなったのか一目で分かる! ――――えっと、みんなはあまり増えないけど、ユウマくんだけやたらと上がるんだね?」
「中でもヘイストは強くなる幅が大きかったよ。ストレングスに関しては固定ダメージを引くと、三人の中で一番少なかったよ」
「…………」
遠回しに「やっぱりお兄ちゃんが一番弱かったよ」って言われてるようで、見えない槍が俺に刺さった。
「パーティーの形は色々あるけど、咲お姉ちゃんのヘイストを受けたお兄ちゃんがいないと、このパーティーの主軸が壊れてしまうので、咲お姉ちゃんがパーティーの主軸であると言っても過言ではないよ!」
「リサちゃん…………ありがとう……私、こんな凄いパーティーにいるべきじゃないと思ったけど……私を必要としてくれる人がいるなら、これからも頑張りたい!」
「俺も咲がいてくれて助かってる。これからもよろしくな」
「はい!」
咲は満面の笑みを浮かべた。
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