第23話 緊急事態発生

 黒衣を全員もらい、その上、セット装備となる武器、黒武器ブラックウェポンまでもらえた。


 黒武器は右手のブレスレットに装着しており、それぞれ使いやすい武器の形となってくれる。


 グランドマスター曰く、ブラックスライム装備は世界でも四セットしか存在せず、つまり全部俺達のパーティーが装着している。


 俺以外はみんな似た感じの服装で、可愛らしい黒いスカートがみんなとても似合っている。


 ベルトみたいなのは俺だけなんだな。


「では、ユウマくん。これを今回の件の報酬とさせてくれ。この度は罪のない人々を救うきっかけをくれて本当にありがとう。彼らと多くの国民や政治家を代表して感謝する」


「グランドマスター!? あ、頭を上げてください!」


 誠心誠意を感じるグランドマスターの行動。彼が探索者ギルドのグランドマスターであることがとてもよかったと思うところだ。




 ――――その時。




 建物内に緊急を知らせる赤いパトランプが点灯し、サイレンが鳴り響く。


「――――各位に告ぐ。各位に告ぐ。緊急事態発生。緊急事態発生」


「緊急事態!?」


「――――市街地に大型ダンジョンが発生。それによって多くの建物破損及び住民の被害あり。繰り返す」


「ダンジョン!?」


 思い出すのは十三年前。俺がまだ八歳だったあの日の出来事。目の前に現れたダンジョンによって、父さんも母さんも妹も飲み込まれた。


 生き残ったのは俺とリサだけ。リサはあの日のショックと瘴気によって病気に侵され、今も病院から一歩も外に出られない。


 それがまた起きた……? 十三年ぶりに? どうしてこのタイミングで……?


「――――直ちに隊員は市街地に向かい救助活動をせよ! これは訓練ではない! 現実である! すぐに出動せよ!」


「グランドマスター!」


 グランドマスターは難しい顔をしたまま、少しの間考え込んだ。


「ユウマくん。君達にお願いがしたい。新しく現れたダンジョンの一層の入口を守ってはくれないか?」


「入口……ですか?」


「ああ。悪い予感がする。魔物がダンジョンから外に出られないのは常識だ。だが、その常識がいつまで・・・・そのままとは限らない。ダンジョンが現れたように」


「っ!? もしかして魔物が外に溢れると!?」


「そうだ。魔物もそうだが救助活動も必須だ。だからここは一番防衛に適した君達にお願いしたい。どうか国民のために手伝ってはくれないか?」


「グランドマスター。水臭いですよ。こんな素晴らしい装備をもらってますし、何度も助けてもらいましたから。ひとまず俺達は急いでダンジョンの入口を目指します」


「ああ……! 頼んだ!」


「はい! みんな! 俺達も行こう!」


「「「うん!」」」


 急いで建物から外に出て、ここまで連れてきてくれた車に乗り込んで市街地に向かった。


「――――お兄ちゃん。みんな。今からここで手に入れた情報を伝えるよ。現在市街地の中心部に現れたのはダンジョンと思われるものだよ。従来のダンジョンと違って洞窟の入口みたいな形ではなく、大きな塔になっているよ。車の中からも見えるかも」


 リサに言われて周りを見ると、火災が起きている場所の中に堂々と空高く聳えたつ黒い塔のような建物が見えた。


「でかい……」


「現在、ダンジョン周辺で魔物は観測されていないよ。でも災害が酷くてダンジョンまではしばらく走らないといけないかも。その案内は私がするね」


「ああ。よろしく頼む」


「現在政府の動きとしては、災害の調査団を派遣するか、塔に爆撃するかで議論が出ているみたい」


「爆撃!? こんなときに!?」


「政府ではすでにあのダンジョンを【イレギュラーダンジョン】と命名していて、中から魔物が溢れたら大変になるから事前に爆撃で倒してしまおうとの意見みたい」


 正直、何を考えたらそういう考えに至るのか理解できない。でもダンジョンの中から魔物が溢れたらもっと多くの犠牲が起きるのは確かだ。


 でも……それで失う命も大きい。しかも、あの塔を破壊できるとも限らない。


「政府の件はグランドマスターが対応することになったよ。現存するミサイルであの塔を破壊できるかシミュレーションしてその結果をグランドマスターに伝えるね。しばらく沈黙になります」


「リサ……! 頑張れ!」


 それから走る車の中、俺達は静かにダンジョンを見つめて何が起きているのか、胸が不安でいっぱいだった。

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