第24話 イレギュラーダンジョンの入口

 立ち上る黒煙が災害の物々しさを表している。


「――――みんな! お待たせ!」


 気合の入ったリサの声が聞こえる。


「政府の件はグランドマスターが全指揮権を預かることになったよ。軍のみなさんは救助を優先。お兄ちゃん達はダンジョンの入口を守ってほしい!」


「了解!」


「これからダンジョンまでの最短ルートを伝えるね!」


「了解っ! 冬ちゃんは道中で危ない人がいたら救助メインで動いてもらえるかい?」


「もちろんです。先輩」


「では行こう! リサもよろしく!」


 それからリサが教えてくれる通りにダンジョンに向かって走る。


 建物が倒れたせいで大通りは通れないので、迷路のようになったがれきの山をかき分けて進む。


 ダンジョンが段々近づいた時、近くから大きな爆発が起きた。


 俺と冬ちゃんが目が合って、すぐに彼女は爆発の方に走って行った。


 俺達はそれに構わずダンジョンを目指し続けた。


 都市に入ってから走り続けて約一時間。


 冬ちゃんはまだ帰ってこない。あの爆発で困っている人々が多くいたと思われる。


 願わくは、できるかぎり助けられたら嬉しいと思う。


 俺とレナ、咲、リサのドローンの四人でダンジョンの中に入った。




 中に入ってすぐに感じたのは、禍々しい気配。


「うっぷ!?」


 入って数秒もしないうちに顔が真っ青になった咲が逃げるようにダンジョンの外に向かった。


「ユ、ユウマくん……ご、ごめんなさい……」


 レナも相当辛そうに顔がどんどん白くなっていく。


「レナ! これ以上具合が悪くなる前に外で待機していてくれ!」


 レナは少し涙ぐんだ目で頷いて外に出た。


「お兄ちゃん。ダンジョン内の瘴気濃度が瘴気爆発よりも濃い数値だよ!」


「そうか。でも俺は何ともない」


「具合悪くなったりしてない?」


「ああ。問題ないよ。このままダンジョン内を探索する。リサも何かあったらすぐに教えてくれ」


「分かった! 瘴気でスキャンが使えなくて地図は分析できないけど、通った場所から地図を作るからね」


 本当に頼もしい妹だ。


 俺のサポートだけでなく、冬ちゃんのサポートもしているだろうし、救助からグランドマスターとの連絡までこなしているはずだ。


 いつも俺が帰ると必死に感情をこらえて笑顔で出迎えてくれたのを知っている。


 俺に心配かけないように、自分の体調が悪くても決して顔に出さないように気丈にふるまっていたのも知っている。


 たった一人の家族であり、守りたい可愛い妹だったのに、いつの間にこんなにも凄い妹に成長したのか……兄としてすごく誇らしい。


 妹がこんなに頑張っているんだ……俺だって頑張らないと……!


 黒い靄が立ち込める中を歩き進めた。


 床と壁は初めて見る作りになっていて、黒色の大理石に似た感触だが、非常に硬そうなのが分かる。


 次の瞬間――――魔物の気配がして、跳んできた魔物が俺を攻撃する。


 カーンという金属音が響く。


 俺の腕に刺さったのは鋭い爪で、黒いごわごわした毛を持つ猿だった。


 そして――――不思議と猿の爪がボロボロと砕け散った。


 続いて何匹もの猿が俺を目掛けて跳んできて攻撃をするが、全ての爪が俺の腕に触れると全て砕け散った。


 今まで、魔物の中で牙や爪がぶつかって砕け散った魔物は存在しない。それくらいここの黒い猿達の爪は特殊なモノということだろう。


 見た目だけで分かるくらい鋭い刃のようなものになっている。


 続けて俺の攻撃を当てる。


 黒武器で召喚したのは、今まで使っていたものと同じ双剣。黒い刀身が黒い靄の中でも存在感を発揮する。


 一撃で倒すことはできなかったが、斬った猿の体には大きな傷ができて、赤い血が流れる。


 倒せないほどではない。


 しかし――――あまりにも数が多い。


 黒い靄の奥からも赤い目がキラリと光る。


 知能はそれほどないようで、無鉄砲に跳んでくる黒い猿達を斬り続ける。


 その時――――白い文字が遠くから通り過ぎる。


『英雄殿! 頑張れええええ!』


『変な猿どもなんかに負けるな!!』


『ユウマさんならできる! やっちゃえ~!』


 俺を応援してくれるコメントだ。


 どうして……?


「お兄ちゃん! 内部の映像を外に残すことにしたよ! 通常映像の転送よりダンジョン配信による電波の転送が安定しているから配信に切り換えたの! 運営からも制限解除してもらった!」


 忙しすぎて返事はできないが、ダンジョン内部の映像がほしいのか。


 それにしてもまさかこういうタイミングで配信することになるとは思わなかった。


 今まで俺は一人でダンジョンを攻略し続けた。いや、一人ではなく、見守ってくれる妹と二人三脚だった。


 いつの間にか増えてきたリスナーのおかげで頑張れた。


 もちろん、リスナーがいなかったとしても俺は諦めなかったと思う。目的のために。


 それでも彼らの声援は、俺を何度も鼓舞してくれて、それがまた自分を肯定することにも繋がった。


 みんなが見守ってくれるなら……百人力だ!


 全力で黒い猿達を斬り続けた。





――――――――――――――――――――

 【あとかき】

最新話まで読んで頂きありがとうございます。

色々と作品作りに悩みがあり、それを打ち消すために新作を投稿しました。

今度こそ……今年もランキングトップを取って三年連続を達成するために頑張っていきます。


心が熱くなったり、心から笑える物語を届けられるように頑張っていきますので、【作品フォロー】と【★で称えるのレビュー】をいただけますと、大きな励みになります。



 【ひとこと】

当作品の設定の一つ。

ダンジョン内に送られる電波は通常電波ではなく、ダンジョン産特殊素材で作った機器から発せられる特別製の電波になります。電波にもいくつもの種類がありますが、こちらのダンジョンの中まで届く電波というのは一種類しかなく、ダンジョン配信のみで使用されております。なのでダンジョン内部の映像はダンジョン配信を行うことでしか映像を届かせられないorドローンで録画したものを回収する方法しかありません。

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