第28話 消える角

 翌日。


「ユウマくん。これからも配信は続ける?」


 ふとレナが聞いてきた。


「そうだね。応援コメントには何度も助けられているし、楽しみにしてくれるみんなのためにも頑張りたい」


「だとアウラちゃんをどうするか、ちゃんと考えた方がいいと思う」


「アウラちゃん……?」


「たぶん……配信中もユウマくんから離れないと思うよ?」


「あ……」


 雷に打たれたようにショックを受けた。


 見つめたアウラちゃんが首を傾げる。


 くぅ……可愛い…………。


 しかし、このまま配信に連れて行くと、いずれ彼女が魔族であることがバレてしまうんじゃないか?


 そうなると、彼女を狙った悪の手が及ぶかもしれない。


 今でこそグランドマスターが守ってくれているが、配信中にそれが可能かどうか。


 それを思ったら、妹のこともふと不安に思える。


 俺達がダンジョンに向かってる間、ずっと一人でいる上に、誰かに襲われると反撃もできない。


「ユウマくん?」


「…………アウラちゃんもだが、リサも不安だな」


「先輩。それは心配しないでください。この建物には政府の秘密組織が守っていますので」


「秘密組織!?」


「秘密ですよ?」


「あ、ああ……」


「伊吹議員の一件があった時点で、先輩はともかく、リサちゃんの存在はそれなりに裏社会には広まっているはずです。それがリサちゃんだとは知らないだろうけど、凄腕ハッカーというのは、業界では強敵ですからね」


 リサの能力の高さには俺も驚いている。グランドマスターとのやり取りでも大活躍した。


「うちの精鋭でもリサちゃんの存在は突き止められませんでしたからね。日本内では最強だと思いましょ」


「へ?」


 ポカーンとする妹がまた可愛らしい。


「なので守りは任せてください。外より守りが堅い自信がありますから。ただ、その代わりにリサちゃんには色々とお仕事を依頼させてもらいますけどね。ね~? リサちゃん」


「うん! 冬ちゃんのお願いだし、お兄ちゃんやみんなのためになるなら、私も頑張る! お兄ちゃん? そんな心配そうな目でみないで?」


「お、おう……無理はしないようにな?」


「うん!」


 リサが自分の覚悟を決めてやるならいいか。楽しそうだしな。


「となると、当面の課題は――――アウラちゃんの言葉と角か」


「言葉は何とかなります。イレギュラーダンジョンで捕まっていた少女だと言えばいいので。問題は角ですね」


「角か……」


 帽子で隠せるけど、何かあった時は見つかってしまうからな……。


「#%$&#!?」


 ふとアウラちゃんの角に触れたら、彼女は顔を真っ赤にして驚いた。


「角だと反応が違うわね」


「俺もびっくりしてしまったよ」


 大きな目を少し潤わせて俺を見上げる。


「%$#&#%$?」


「えっと……やっぱり言葉が分からないや」


 角を触って何かを呟いたけど、やっぱり分からない。


 ――――次の瞬間。


「&#$%“&!」


 いつもと少し違う羅列の言葉を話すと、角二本が紫色の光に包まれた。


「え!?」


「%#$$?」


「おおお! 角が消えてる! 凄い!」


 みんなでアウラちゃんの頭を撫でてあげる。


 これなら外に出ても問題なさそうだ。


「角なしなら大丈夫そうだね」


「ちゅ~の~な~し~?」


 くっ……可愛すぎるっ……!


「ふふっ。これなら一緒に配信に向かっても大丈夫だね」


「うん。さて、遅れる前に出ようか?」


「「「「は~い」」」」


「リサ。行ってくるな。ドローンで一緒ではあるけど」


「うん! いってらっしゃい!」


 リサを残して俺達はアジトからBランクダンジョンに向かった。


 落ち着いて初めての外出に、アウラちゃんは周りをキョロキョロしている。その右手は俺の左手をしっかり握りしめている。


「アウラちゃん、すごく楽しそうだね~」


「部屋だけだと見えない景色もあるしな。リサも最初のドローンの時はキョロキョロしてたもんね」


「えっ~!? し、してな…………いもん…………」


 今頃口を尖らせていそうだ。


 そして、俺達は何だか久しぶりに思えるBランクダンジョンにやってきた。


 たった数日前だけど、イレギュラーダンジョンのインパクトが強すぎて遠い過去のように思える。


 ダンジョンの中に入ると、アウラちゃんの表情が少し明るくなった。


「リサ。ちょっとお願いしたいんだけど」


「ん?」


「そのドローンって体調まで見れるんだよね? ダンジョン外と内でアウラちゃんの体調を見てくれる?」


「かしこまり~」


「かしこまりゅ~」


 最初こそイヤホンに戸惑っていたアウラちゃんだけど、すっかり馴染んでリサのモノマネをする。ここに来るまで何度もやってて、発音も少し慣れたようだ。


「さて。アウラ~?」


「$#」


「俺は魔物を連れてくるから、しばらくみんなと一緒にいてね? 咲、よろしく~」


「任されました!」


 アウラは咲と手を繋いだ。


 今回はわがままを言わず、ちゃんと見守る。


 ダンジョンの雰囲気を感じ取ったのか、これから何をするのか分かるようだ。


 それにしても魔族にとってダンジョンという場所はどういう場所なのだろう?


 丁度、一層を出発する頃、波乱を呼ぶダンジョン配信が始まった。




――――【ご報告】――――

 このたび、皆様の応援のおかげで、当作品のコミカライズが決定しました!

 ユウマくんやリサちゃんが絵になって動くと思うとワクワクしております!さらにアウラちゃんやレナ、咲、冬様も楽しみでワクワクします!

 最近展開の件で色々すり合わせをしていて更新が遅れていたのですが、来週からはまた普通に毎日更新できると思いますので、これからも温かく見守ってくださると嬉しいです!


 再度になりますが、本当にたくさんの応援ありがとうございました!これからもよろしくお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る