第2話 スライムを倒し続けて一年
三か月後。
今日も今日とてEランクダンジョンの一層にやってきてスライムを倒す。
三か月前から変わり、それなりに倒せるようにはなった。なにしろレベルが1から5に上昇しただけあり、二十回斬るというものが、十回まで減っている。
つまり……そう変わってはない。
《視聴者数:8人》
最近は毎日見に来てくれるリスナーも増えて、ちょくちょくコメントも貰えるようになった。
ただ、いいコメントばかりではないけど。
『今日もやってて草ww』
『今日は何回吹き飛ばされるか楽しみにだな~』
「どうも。今日も配信を始めます。よろしくお願いします」
ペコリとカメラに向かって挨拶をして、スライムを攻撃し始める。
へっぴり腰はだいぶ無くなったけど、相変わらずスライムの攻撃が避けられない。普段はそう速くないのに、攻撃時だけ凄まじく速いのだ。
『一回目いただきました~!wwww』
最近は俺が吹き飛ばされる回数を数えるのが楽しいみたい。
まあ……そういうものを楽しむ人がいるってことだ。
配信というエンタメにて、普通より違う楽しみ方を探す人ならではのことだと思う。
それから何度も吹き飛ばされながら一匹目を倒して、また狩りを続ける。
三時間が経過して二十匹を倒して配信終了となった。
『今日は二百回飛ばされオツカレ~wwww』
『応援ボタン押しておくぜ~明日は頑張れよ~』
最近は心温かいコメントも届くようになった。
応援ボタンというのは、いわゆる投げ銭と呼ばれるシステムで、一人百円を投げてもらえる。今日の応援ポイントは5。これで五百円をもらえたことになる。
たった五百円だと思えるかもしれないけど、こうして誰かに毎日百円を投げるというのは大きな負担になるはずだ。それを定期的に投げてくれる。三か月前のように罵声罵倒ばかりの頃よりずっと幸せだ。
◆
さらに三か月後。
レベルは5から7に上昇している。
レベルが8になれば新しいスキルが手に入るので、そこで一層から二層に狩場を移そうかと考えている。
今日も配信をしてダンジョンを出た。
丁度ダンジョンを出た時、俺の目の前を歩く探索者集団がいた。
探索者は身を守るために鎧を着ていたり、背中や腰に武器を携えている人が多い。大剣なんて大きすぎて隠せないから。
その中で、一人の男性が俺に視線を向けた。
「ん……? あれって
パーティー全員の視線が俺に向く。
その視線は――――まるで動物園で檻越しの動物を見つめるような目だ。
「ぎゃははは! もやしは相変わらず一人でダンジョンかよ! しかも服もボロボロだな!」
大きな声を上げる男性は、元クラスメイトの
「や、やあ……伊吹くん。久しぶりだね……」
「おうよ! これから俺達はBランクダンジョンに挑戦するんだぜ! なあ? ――――レナ」
彼が視線を向けた場所から俺をじっと見つめている金色に輝く瞳。美しい金色の髪が風になびく。
誰もが憧れを抱いていたマドンナ的な存在。今は最強探索者になるべく日々進化している『剣神』のレナ。半年前はCランクダンジョンだったのに、もうBランクダンジョン……。
彼女はゆっくりと近づいてきた。
後ろでは伊吹くんたちがゲラゲラと声を上げて笑っている。
近づいてきた彼女は、小さな声でとある言葉を話してパーティーのところに戻っていく
あまりの突然な声にポカーンとしていると、間抜けヅラだとさらに伊吹くん達に笑われた。
翌日。
今日もEランクダンジョン一層にやってきてスライムに対峙する。
昨日、彼女に言われた言葉を実行する。
「たしか……短刀は両手ではなく、右手に持って……?」
剣って両手で持った方が強いと思って、ずっと両手で持っていたけど、どうやら片手がいいらしい。
「今度は足をいつもより開いて
一言でいうなら、『どしっと構える』感じ?
「そして、動く時は――――両足ではなく、片足ずつ動かす感覚!」
彼女に言われた通りのことを試してスライムに攻撃を仕掛ける。
まず右足で地面を蹴り飛ばして体の重心が移動するのを感じる。今までの動きよりも速くなったおかげか、視界の動きが慣れなくて「うわあ!?」と間抜けな声が出た。
…………スライムを通り抜けてしまった。
後ろから俺を捕捉したスライムが攻撃してくる気配を感じたので、今度は左足で地面を蹴って横に動く。この時も体の重心を絶対に忘れないようにする。
今まで吹き飛ばされていたのに、避けられるようになった。今度は手に持っていた短刀を振る。
短刀を振る時に片足だけだと重心がぶれてしまう。へっぴり腰になるというか、スライムが小さくて腰を曲げなきゃいけないこともあるからな……。
まあ、これも練習だ。
その日の配信では、俺が新しく取り組んだ動きがあまりにも
◆
三か月後。
レベルが7から8になった。
二層に向かおうとしたけど、実はまだ向かっておらず、まだ一層だ。
その理由は、以前教えてもらった動きがまだ納得いかないからだ。
こう、何とかなりそうでならないのがいたたまれない。
配信が終わり、帰ろうとした時、入口から一人の女性が足早にやってきた。
「えっ!?」
彼女は素早くやってきて、俺の前に止まった。
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