第35話 悪意と善意と自分と

 配信は基本的にダンジョンでしか開始できない。


 リサの力を借りれば外でもできるけど、それは一種の抜け穴になる。イレギュラーダンジョンのような緊急時でもなければ、しない方がいいと思う。


 個人的な使い方になるので、久しぶりにスライムのダンジョンにやってきた。


 そして、配信が始まる。


 メンバーみんなは瘴気によるダウンによってダンジョンには入って来れないので、俺一人での対応になった。そもそもあの一件はメンバー関係なく俺の問題だから。


『ロリコン英雄キタァァァァ~!』


『昨晩はお楽しみでしたな~』


『犯罪者~! 犯罪者~!』


 無数の批判コメント、心の無いコメントが流れる。


 たった一夜でここまで変わるものなんだなと思いながら、しっかりコメントを目に焼き付けた。


 俺自身、何か悪いことをした覚えはない。たしかに美紅さんをすぐに両親のもとに帰すべきだったけど、仮にそうしたとて、同じ事になった気がする。


「この度は私のことで色々騒がせてしまって申し訳ありません。事情を説明するために配信を行いました」


 続くブーイング。


 ただ、その中にも応援するコメントもちらほら見えた。


 いつも見てくれているリスナーたちだと思う。


 コメントを送る人の名前は見えないので憶測にしかならないけど、俺を擁護する人はきっとそういう人なのだろう。


「今回記事を読ませていただきましたが、書かれている内容・・・・・・・・はおおむねあっております。ただし、一つだけ。俺が彼女をホテルに連れ込んだと書かれておりますが、あの日、配信を続けて見てくださった皆様なら分かると思います。俺にはパーティーメンバーがおり、みんなダンジョン入口で待っていてくれてました」


『どうせ口封じしたんだろ!』


『彼女たちも玩具にしてるんだろ!』


 責任のないコメント。そうか……これが配信で感じる野次なんだな。


「事実から申しますと、警察の方に相談させていただき、警察同伴の下・・・・、ご両親に了解も得た上に瘴気による深刻な体調不良で起きれない彼女を、俺のメンバーのところで一晩面倒みていただきました。たしかに彼女が帰ったのは翌日ですが、メンバーのみんなが頑張って看病してくれたんです」


 どんどん批判コメントが減っていく。


「あの日も多くの方々が配信を見てくださったはず。メンバーのみんなが見守る中、言い訳をして彼女をホテルに連れ込んだのなら、すぐにメンバーたちによって事実は発覚するはずです。今日ここに証人として出てもらわなかったのは、こうして配信で事実をしっかり伝えて、彼女にもメンバーたちにも事実を伝えることが一番だと思ったからです」


『は~つまんね~』


『何だよ。ただのデマかよ』


『あのサイトのニュースだから信じたのにな』


「あの写真が撮られた時だって、メンバーと一緒でした。ただ、彼女の体調面を考えたとはいえ、そのまま警察署ではなく警察の方に連絡を取り来てもらったことには違いありません。俺自身も未成年である彼女のことを思ってもっと柔軟に動くべきでした。これからも自分の行動に色んな責任が伴うんだと自覚して、より慎重に行動します。今回の一件で心配してくださり、見守ってくださったリスナーの皆様。ありがとうございます」


 俺は深々と頭を下げた。


 悲しいという感情よりも――――俺はどこか嬉しいという気持ちがある。


 批判をするリスナーも多いけど、俺を長年見守ってくれたリスナーは俺を信じて擁護してくれたし、ちゃんと待っていてくれた。


 昨日一日で減った登録者数は約9割強。


 それでも残ってくれて期待してくれた人だって多いんだろうと思う。


 自分が歩んだ道は確かで間違いじゃないんだと思うと、胸が熱くなる。


 金属スライムを倒すまで三年間、毎日配信をやってた。


 最初こそ冷やかしも多かったけど、見守ってくれる人も多くて、レナのおかげで戦い方も上手くなっていった。


 金属スライムを倒すまで俺のためにずっと頑張ってくれたモノ。


 固定追加ダメージ。


 金属スライムを倒してから【固定追加ダメージ】の存在を忘れていた。忘れたわけじゃないけど、どうしても注目していなかったし、あの日までもずっと向き合ったことがない。


 今の自分と、固定追加ダメージは似てる気がする。


 ずっと支えてくれたのに、俺から見向きもされずに、ただただハズレスキルとして扱われ続けた。


 誰よりも自分を支えてくれた力なのに、俺はどうして向き合うことをしなかったのだろう?


 強くなったのはレナのアドバイスのおかげだと、自分の力をどうして信じてあげられなかったんだろう?


「ダンジョン配信は明日からも続けます」


 俺は泣きそうな声をぐっとこらえて、再度深々と頭を下げて配信は終了した。


 嬉しさも自分の愚かさも相まって涙が溢れた。


 冬ちゃんが言いかけた【先天的なスキル】の意味。少しだけ分かった気がした。そのスキルは――――俺達それぞれが胸の中にしまいこんだ、もう一人の自分だということ。


 ようやく俺も一歩前に進められた気がした。

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