第34話 悪意の切り抜き

 パーティーメンバーのためにダンジョン攻略は一日配信して一日休んでを繰り返す。基本的に月水金曜日だけダンジョンに入ることにして、火木土日は休み。


 毎日ダンジョンに入るのは当然だったので、手持ち無沙汰となった。


 このまま一人でダンジョンに向かってもいいのかなと思いつつ、昨日の美紅さんとの勝負のことをまた思い返した。


 圧倒的な火力で敵を殲滅していく。


 脅威から人々を守るにはああいう力が必要なんだと理解した。


 もちろん、メンバーのみんなが強いので、それぞれ担当分けでもいいと思う。


 でも心のどこかにみんなを自分の目的のために巻き込みたくないという感情もある。


 俺一人が強ければ……と思ってしまう。


「せん~ぱい~」


「ん? 冬ちゃん? どうしたんだ?」


 アジトの上。病院の屋上に自由に出入りしていいとのことで、屋上から街を眺めていると冬ちゃんが一人でやってきた。


「何か思いつめた表情だったので~私が何か力になりますよ~?」


「あはは……そんなつもりじゃなかったけどな……ありがとう。冬ちゃん」


「いえいえ~仲間なんですから」


「…………なあ。冬ちゃん。強くなるにはどうしたらいいんだ?」


「強くなる……ですか? 先輩は十分強いんではないですか?」


「魔物の攻撃を受け止めることは簡単だけど、倒すとなると力不足だなと思って」


「なる~つまり、先輩は最強の・・・頑丈さを持ちながら、最強の・・・火力まで持ちたいと~」


「た、端的に言えばそうなるの……か? 最強だとかは思わないけど…………」


「美紅ちゃんは別格ですよ?」


「うん。知ってる」


 レナの刀術、冬ちゃんの忍術を間近で見てきて、二人の実力の高さは知っているけど、やはり美紅さんの爆炎による殲滅力は一線を画すものがあった。


「詮索したいわけじゃないですが、先輩の防御力って、先天的なものじゃなかったんですよね?」


「うん? そうだな」


「先天的なものは、便宜上ここは【瘴気耐性】とでも言っておきましょう。瘴気耐性と追加固定ダメージでしたっけ?」


「うん」


 久しぶりに認識した【追加固定ダメージ】。


 金属スライムを倒す時にこれがなかったら絶対に負けていたし、俺にとってはかせのような、希望のような存在だ。


「レベルが上がって得るスキルと十八歳で手に入るスキルでは明確な違いがあるんです」


「えっ……? 明確な違い?」


「はい。それは――――」


 冬ちゃんが何かを言いかけたその時――――


「お兄ちゃん! 大変だよ! 部屋に戻って!!」


 入口からドローンが飛んできて、焦った妹の声が響いた。


「リサ!?」


「急いで!」


「わ、分かった!」


 俺と冬ちゃんは急いで下の部屋に戻った。




「リサ!? どうした!?」


「お兄ちゃん。大変!」


 部屋に戻ると、宙に浮いた画面にとある記事が映っていた。


《暗黒獣から人々を守った英雄。裏では未成年者を無理矢理眠らせてホテルに連れ込む。》


 大きな見出しに頭が真っ白になる。


 すぐに下に映っていた画像には――――俺が気絶した美紅さんをおぶっている写真が映されていた。


 絶妙に仲間達は映らない角度で、しかも後ろにホテルまで映っている。


 記事には細かく俺が連れ込んで彼女が帰ったのは翌日などの事実・・が書かれていた。


 確かに事実ではあるんだけど、書き方からどう考えても誤解されるような書き方。


 当然のように記事のコメントには無数の俺への誹謗中傷が書かれていた。


 急いで自分のチャンネルのページを覗く。


 コミュニティコメントには『見損なった』『クズ中のクズ』『ロリコン』などのとても目にできないような誹謗中傷がかなり広まっていた。


 もちろん、登録者数も激減している。


「お兄ちゃん……」


「っ!? 美紅さんには? 何か美紅さんに被害は届いている?」


「え、えっと……」


「リサ。すぐに美紅さんのことを調べてくれ。これで彼女に何か被害がいくのは困る」


 記事には美紅さんのことは一切書かれていなかった。ただ、制服と赤い髪で誰なのか一目で分かる。


 こういう記事が出回ったら、間違いなく彼女に何かしらの被害があるかもしれない。


「冬ちゃん。彼女にマスコミが流れるかもしれない」


「……先輩。落ち着いてください。それはもう――――やってます」


「っ!? ありがとう。冬ちゃん」


「いえ。それにしても先輩って…………自分よりも彼女のことを先に気に掛けるんですね」


「えっ? い、いや、俺はまぁ……こういう誹謗中傷には慣れているから。ダンジョンに入った頃から」


 戻りたくはない。でもそういう悪意にも向き合うべきだと、配信をすると覚悟した時にそう考えていた。


「お兄ちゃん……」


「リサ。悲しむ必要はないよ。それに――――これは事実とは違う。明らかに悪意を以って誰かが仕掛けたものだ。そこに真実はない。なら俺は胸を張って歩くべきだと思う。これによって誰かが傷つくことだけ避けたい」


「えっと……この記事書いた人……」


 俺はリサの肩に手を上げて笑顔で顔を横に振った。


 リサの力なら、記事を書いた人を特定して報復することなんて簡単だ。伊吹議員の時のように。


 だけど、リサの力をこんなくだらないこと・・・・・・・に使ってほしくはない。


「ちゃんと配信で事情を言うよ」


「でもっ……それだけでは絶対にみんなには届かないよ!」


「それでも、悪いことをしたわけじゃないし、みんな分かってくれるさ」


 リサは悲しげに俯いた。


「大丈夫。みんなきっと分かってくれるよ」


「うん……」


 俺は緊急配信を行うことにした。

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