第33話 ギフター
翌日。
美紅さんの家には、警察から事情を連絡してもらった。
何度か補導されていただけに、スムーズに進んだらしい。
ようやく起きた美紅さんは、目を大きくしてみんなを見つめていた。レナが事情を詳しく説明して納得したように肩を落としていた。
とくに何かを話し合うとかはせず、みんなで一緒に朝食を食べ終えた。
「あ、あのっ! こ、この度は大変申し訳ございませんでしたっ!!」
美紅さんが俺達に向かって座ったまま土下座をした。
「一つ聞きたいんだけど、どうして俺に勝負を仕掛けたのか聞いてもいいかい?」
「は、はいっ!」
背筋を伸ばして俺をしっかり見つめる。
「暗黒獣もイレギュラーダンジョンも私でも余裕で倒せると思ったからです! 英雄さんの戦いを見て、強そうに見えなかったからです!」
す、ストレートに言われるとちょっと刺さるものがあるな……。
「はい。私からも一ついいかな? ユウマくん」
手を上げるレナ。
「ん? どうぞ」
「まずイレギュラーダンジョンの件だけど、美紅さんの実力の高さは分かるけど、おそらく――――数分もしないで出てくるか、死んでたと思う」
「っ!?」
「あそこは今までのダンジョンと違って瘴気が何百倍も濃かった。空気が霧みたいになっていたくらい濃かったの。私達誰一人数秒も耐えられずダンジョンから出るしかなかったのよ」
「…………」
「六時間もダンジョンで活動できたのは凄いと思う。でもあのイレギュラーダンジョンは特別だったよ。それに暗黒獣。暗黒獣が強い理由は、硬さ
「はい。ユウマさんの強さを私は勘違いしていました。グリーンコンガの攻撃を止めた上に、私の爆炎にも傷一つ付きませんでしたから」
彼女の攻撃力の高さを間近で見た。本当に恐ろしいほどに強く、魔物が一瞬で炭になっていく。
それが彼女の強さであり、レナや冬ちゃんの強さでもあると思う。
俺の強さというのは何だろうと思い続ける。
今の俺の強みは【
金属スライムを倒して手に入れた力だから、自分の力なのは当然だ。【金剛支配者】を否定したいわけではない。
俺だけができる強みというのは何だろう……?
俺だけが持っている強さ――――ずっと俺と一緒に俺が俺であることを示してくれた強さは…………。
「ユウマくん?」
レナが心配そうな顔で覗き込んだ。
「大丈夫。それより美紅さん。君はまだ学生にも関わらず、ダンジョンに入っているんだよね?」
「は、はい……」
「普通なら十八歳で力が目覚めるけど、たまに稀にそれよりも前に力が目覚める【ギフター】だよね?」
美紅さんはこくりと頷いた。
そもそもダンジョンに成人してから潜る一番の理由は、スキルを授かるのが十八歳だからだ。
それよりも幼いころに目覚めるごく少数。彼らを総じて【ギフター】と呼んでいる。
さらに【ギフター】たちの大きな特徴は――――全員がとても強いことだ。
美紅さんのように強い炎を操るなど、全員が強すぎる力を手に入れる。
「いくら力を手に入れてもダンジョンに入るのは成人してから…………でもその方も力がないうちに入らないようにしているから、今の美紅さんはグレーゾーンなのは美紅さんも知ってると思う。何度か補導されたとも聞くし。それでも目標があってダンジョンに入るんだと思う。だからそれを止めたいとは思わない。でもね」
隣にいる妹の手を取る。
「俺もずっと一人でダンジョンに潜ってた。見守ることしかできない妹を一人残して。昔は今よりもずっとずっと弱くてスライムにクタクタになるくらいで、美紅さんと比べられないけど、でもダンジョンは――――死が平等に訪れるんだ。美紅さんが今まで無茶はせずにやってたのは分かるけど、それでもこういうきっかけに死にかけたのは事実なんだ」
「はい……」
「あれから俺も仲間ができて、色々悩んではいるけど、パーティーを組む大事さも知ったよ。だから美紅さんにも――――パーティーをちゃんと組めるようになってからダンジョンに入ってほしい。まだそんなに焦らなくても大丈夫。美紅さんが思っているよりも、日本には強い人がたくさんいるから」
美紅さんが悔しそうな表情で拳を握りしめた。
「…………あの!」
「うん?」
「二年後…………私がちゃんと成人になったら…………パーティー…………組んでくれますか?」
「えっ……? 俺は構わないけど、どうして俺たちのところに?」
「…………私の力。周りを巻き込んでしまうんです。だからパーティー組んでいても結局一人で戦うから……」
「はいはい~それなら大丈夫ですよ~」
冬ちゃんが手を上げる。
「先輩って硬さだけなら十分すぎるから、集めてきた魔物を先輩ごと燃やしてくれればいいんです」
「俺ごと!? ま、まあ……俺が燃えない範囲内でなら……?」
リサがぷふっと笑うと、連鎖してみんな笑い始めた。
みんなたくさん笑って美紅さんを家に届ける。
美紅さんはただ自分の力を自慢したかったとかではなく、暗黒獣のような緊急事態に対応できるようにずっと自分を鍛えていた。強い力を授かった自分の使命であるからと。
けれど、孤独は人を暗い気持ちにさせてしまう。
まだ成人していない彼女の頑張りは、周りからすれば悪目立ちするものだ。
いつしか孤立した彼女もこれからどうするか悩んでいたんだろう。
これをきっかけにゆっくりただしい道にまっすぐ進んでほしい。
たまにアジトに遊びにくると言い残した彼女は、笑顔で両親のもとに帰った。
――――でも、この時はまだ知らなかった。
俺と彼女を巻き込んだ大きな悪意が
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