第32話 警察!?

 俺を殴り付けたゴリラは灰となって、彼女は気を失った。


 彼女を抱きかかえてダンジョンを出る。


 時間からしてすっかり夜も深くなりそうだな。


 できるだけ戦いを避けるために魔物から身を隠しながらダンジョンを後にした。




「「ユウマくん!」」「先輩!」「お兄ちゃん!」「#%$“&」


 外に出るとみんなが出迎えてくれる。


「みんな。ただいま」


「ユウマくんだから心配はしてないけど、彼女も無事でよかった」


「そうだな。長時間瘴気を我慢していたみたいだから、結構苦しそう」


「ひとまず安静にしてあげないとね。一旦アジトまで連れていこうか」


「分かった」


 レナの提案通り、美紅さんを抱きかかえたままアジトに戻った。




 ――――その時、とある悪意・・が俺に向いているとは思いもしなかった。




 ◆




「みんな! おかえりなさい!」


 アジトに戻ると妹が珍しく俺に突撃してきた。


「うわっ!? リサ?」


「無事でよかった……」


「あはは……ほら、俺の力知ってるでしょう? 倒すのは厳しいけど、硬さには定評があるからさ」


 自分でいうのもあれだけど、硬さに定評ってちょっと嫌かも。


 でも一つ分かったのは、メンバーそれぞれに役割があって、俺がいなくても彼女たちが強いのは当然だが、それでも俺にできることはあるということ。


 とくに、今回のように瘴気に関わることなら、俺も誰かのためになれるんだと思う。


 美紅さんを布団に横たわらせると、レナたちがテキパキと彼女の体を拭いてあげたりしてくれた。


 すっかり外は暗くなって、みんなで夕飯を食べても彼女は起きなかった。


 それくらい瘴気を我慢していたんだろうな。


「それにしても、彼女を家に帰すべきだと思うんだけど、どうしよう?」


「家の情報なら調べることもできるんだけど、違法行為になっちゃうけどいいかな?」


 …………やっぱりできるんだな。


 最近妹のすごさをより知ることができている気がする。


 伊吹議員のときだって、裏でグランドマスターに怒られていたらしい。


 ただ、不正アクセスした形跡が一切なく、どこから情報を手に入れたか立証もできないので、リサを犯人と捕まえることは不可能だという。


 それほどリサの能力が高いのが分かる。


 彼女の家の住所を探すのも不可能ではないだろう。ただ、個人情報をおいそれと抜き出すのは何かの火種になりかねない。


「先輩。それならうちが警察に連絡して連携を取ります。ひとまず身柄はこちらで確保しておく感じにすれば問題ないかと。未成年者を匿うことにはならないと思います」


「そっか。悪いけどお願いするな。冬ちゃん」


「は~い」


 すぐにどこかに電話をする。


 しばらく話し合って、座卓のところに戻ってきた。


「警察で保護という形になりました」


「そっか。でもここに警察がいないけど、大丈夫なのか?」


「えっ? いますよ?」


「えっ?」


 ちらっと俺を見た冬ちゃんが、懐から手のひらサイズの手帳を開いて見せてくれる。


「一応、私が警察ですから」


「ええええ!? 冬ちゃん、警察だったんだ!?」


「念のために伝えておきますと、私が警察に席を置いているのは、仕事柄警察であることが楽だからですね。実際は探索者ギルド所属の諜報員になります。これは国も了承していることですから安心してください」


「へ、へぇ…………俺の知らない世界だ。すごいな……」


 レナたちも驚いたようで、頷いた。


「なので、彼女は私が保護していることになりましたから安心してください。それよりも、今後のことを考えた方がいいですね」


「今後?」


「ほら、彼女って高校生ですからね。高校生のダンジョン入場は違法行為なんです」


「あ」


「でも彼女の能力の強さからグレーゾーン的な部分があって、警察でも彼女を捕まえられなかったという部分もあります」


「あれ……? 冬ちゃんなら余裕で捕まえられたんじゃない?」


 冬ちゃんが苦笑いを浮かべた。


「捕まえるだけなら可能ですし、彼女はすでに何度か補導されています。ただ、聞かなかったんですよね」


 あはは……なんか、想像できてしまうな。


「今までは彼女一人で行動していて、力によって大活躍していたのでなあなあになっていたんですが、今回こうして気絶してしまうまでやったし、その原因が先輩にもあるので、彼女には色々きついことになるでしょうね」


「ふむ…………」


「怒るのは――――先輩ですよ」


「俺!?」


「はい。当事者ですから。彼女がこれ以上無茶しないように先輩がちゃんと怒ってください。これは実力ある探索者を守るために国からのおねがい・・・・ですからね」


 おねがいだけ強調して、それってつまり、おねがいじゃないじゃん……。まあ、俺としても彼女が才能ありなし関係なく、一人の人間としてダンジョンで無茶をして命を落として欲しくはない。


「分かった。俺にできる範囲で頑張るよ」


「はい。頑張ってくださいね! 応援してます~先輩!」


「こういうときだけハイテンションになるなっ!」


 冬ちゃんはイタズラっぽく笑みを浮かべた。

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