第36話 向き合うべき存在

「おかえり」


 ダンジョンを出ると心配そうなレナが待っていてくれた。


「あれ? みんな……どうしてここに?」


「配信を見たから急いで来たの」


 他にもリサはもちろん、冬ちゃん、咲まで来ている。


 みんな休日だから自由行動にしていたのに、わざわざここまで来てくれた。


「みんなありがとうな。でも俺は大丈夫だよ。それより美紅さんは大丈夫そう? リサ」


「うん。向こうは冬ちゃんが先に手を回してくれてマスコミはもちろん、学校の方にも手出しできなくさせたよ。もしそれを破るなら…………」


 つ、続きの言葉はあまり聞きたくないかも。


「みんな。俺はこれからもダンジョンに潜ろうと思ってる。配信をするかしないかは色々考えたけど、今まで支えてくれたリスナーのためにも続けて配信したい。そこで、配信が嫌なら――――」


 真っ先に手を上げるのは意外にも咲。


「問題ないよ! 最近はリスナーたちにありがとうって言われているし、一緒に戦っている感じがしてすごく楽しいもの!」


「私も賛成。ユウマくんの配信のおかげで毎日頑張れたし、そういう人、きっとたくさんいると思う」


「先輩。そんなくだらない心配はしないで、もっとリスナーたちをどう楽しませようかとか考えた方がいいんじゃないですかぁ~?」


「みんな……」


 最後にリサの方を向いた。


 カメラ越しだけど、辛そうにしている妹が容易に想像できる。


「私は…………正直、お兄ちゃんに探索者を辞めてほしい。あんなに頑張ったのに、ちょっとした悪意であんなに言われて……お兄ちゃんが悪いわけじゃないのに……いつも誰かのために頑張っているのに……」


「リサ……」


「でも……この前、お兄ちゃんの頑張る姿を見て手術を受ける決心がついたって子供がいて、術後はかなり良好で元気になったりしたし、お兄ちゃんが頑張る姿で救われる人がたくさんいるのも知ってるから…………だから反対しないよ。代わりに――――私がこれから守る。ちゃんとお兄ちゃんを支えるパーティーメンバーになる!」


「リサ……みんな…………ありがとう。俺のわがままに付き合ってくれて」


「そんな水臭いこと言わないで? 私達だってユウマくんにたくさん力を貰ってるから! これからも一緒に頑張ろう~!」


 レナに合わせてみんなも「頑張ろう~!」って可愛らしく声を上げてくれた。


 ただただ努力を続けただけで、こうして誰かを励ますことができて、最高の仲間ができて、最高のリスナーたちができた。


 両親と妹を失ったあの日からただ前を向いて歩いたことが、こうして実を結んでいくことが本当に嬉しい。


 けれど、まだ終わりじゃない……。


 もう一人のメンバーというべき存在。【固定追加ダメージ】とちゃんと向き合うべきだと思う。


 一旦、俺達はアジトに戻った。




 入ってすぐに、燃えそうな目で俺を見つめる仁王立ちした美紅さんが待ち構えていた。


「昨日ぶりだね。美紅さん」


「美紅さん――――じゃないですよ! あんなことがあったんなら早く言ってくださいよ! 私もちゃんと釈明したのに!」


「あはは……多分美紅さんが一緒に出たら、それはそれで色々燃えたと思う。色んな意味で」


「……むぅ! それって私が燃えやすいから!?」


 美紅さんの反応にみんな大笑いをする。


「はあ……本当に大丈夫なんですね? ユウマお兄ちゃん」


「お、おう……問題ないよ」


 いままで『おじさん』って呼んでたのに、『ユウマお兄ちゃん』って呼ぶことにちょっと驚いた。


「じゃあ、信じます! 何かあったらすぐに言ってくれれば、ちゃんと事実を言いますから!」


「ああ。その時はよろしく頼む」


「それと! もう美紅さんじゃなくて、美紅ちゃんか美紅って呼んでね?」


「お、おう」


 それから美紅も一緒にみんなで食事を楽しんだ。


 賑やかな食卓に美紅が加わると、より賑やかな食卓になって、リサもとても楽しそうにしていた。


 食後、紅茶を飲んでいるとおもむろにレナが俺を見つめた。


「ユウマくん」


「ん?」


「今回の一件は、一旦こちらの表明は終わったとして、これからの対応も考えておいた方がいいんじゃないかな?」


「それって、記者や記事、サイトのこと?」


「うん。今でもあの記事は載り続けているし、個人的には今すぐにでも名誉毀損・・・・を訴えるべきかなと思う」


「名誉毀損……」


「記事の内容は全て事実だったけど、タイトルと画像で十分騙せるものだと思う。十分に名誉毀損に当たると思う」


「はい!」


 リサが元気よく手を上げた。


「リサ?」


「この一件。続きは私に任せてほしいな!」


 その瞳には――――凄まじい怒りが灯っていた。


「あはは……分かった。リサに全て任せるよ」


「ユウマくん? 一つだけ言っておくけど……だぶん、元の登録者数には戻らないと思う」


 心配そうに話すレナ。


「ああ。知っているつもりだ。と言っても、俺自身、元々登録者数を目指したわけでもないし、悲しいといえば悲しいけど、悲観するじゃないかな?」


「そっか。ならいいか!」


「ああ。だからリサも美紅もあまり思いつめないようにな」


 二人とも大きく頷いた。


 ただ、リサが燃えていて少し怖かった。


 うちの妹……怒ると本当に怖いんだよ……。

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