第37話 パンドラの箱
※法律の詳しくは作者もあまり分からず、調べた範囲で書いておりますので、矛盾点があってもきにせず読み進めていただけるとうれしいです※
「がははは!」
小さな部屋で男はスマホを眺めながら大声で笑う。
テーブルの上にはかなりの量のお金の札束が置かれていた。
「たった一日でこんな大金が! 今回の仕事は楽勝だったし、最高じゃん!」
その時、男のスマホに案内通知が鳴る。
そこにはとあるダンジョン配信探索者が配信を始める知らせが届いていた。
配信を付けると、英雄と言われている探索者――――ユウマが映った。
それから彼は釈明をするが、コメントは荒れる一方だ。
「くっくっくっ。いくら釈明したところでネットはそう簡単に鎮火しないぜ。英雄さんよ」
テーブルに置かれたお金の札束を取る。
「俺にとって
男は興味をなくしたようにスマホを消してテーブルに置いてあるお酒をぐびぐび飲む。
「訴えられても慰謝料なんてせいぜい百万……くっくっくっ。ぼろ儲けだな!」
男は
そして、酔って気持ちよく眠りについた。
その先――――地獄が待っているとも思わずに。
翌日。
男が目を覚ます。
慣れた手でスマホを覗く。
ニュース記事には自分の記事がデマだということが既に上がっていたが、
その時、扉が乱暴に開けられて、複数の警官が入ってきた。
「な、なんだ!?」
「記者アバランチだな?」
アバランチは彼が使用している記者としてのペンネームだ。
「逮捕状が出ている。このまま逮捕させてもらうぞ」
「なっ!? ふ、ふざけるな! 俺は逮捕されるようなことはなにもしてないぞ!」
「それはこれから聞く。もし拒否した場合、公務執行妨害罪が適応される」
「はあ!?」
警官たちは慣れた手付きで彼を逮捕し、テーブルの上に乱雑に置かれたお金も全て写真とともに回収して。
取調室。
男はまだ現状が見えておらず、余裕のある表情で刑事を見つめる。
「それで? 俺になんの罪があると?」
「…………こちらの記事。貴方が書かれましたね?」
刑事が差し出した紙には、男が書いた記事が印字されていた。
「ええ。俺が書いた記事ですが?」
「こちらの虚偽の記事によって相手は大きな被害を受けたのですが、知ってのことですね?」
「俺は自分の目で見たものを記事にしただけだ!」
「なるほど……では、
「ああ。もちろんだとも!」
そう言い切った男の前にもう一枚の紙が出される。
「ん……?」
「こちらは当日のホテルの使用記録です」
「は……? それが何か?」
「
「いやいや! そんなこと分からないだろう!」
「お店の入店時間情報一覧が何よりの証拠。そして――――何より大きいのがこの写真でしょう」
刑事は何枚かの写真を取り出した。
そこには男がユウマや彼の仲間たちを隠し撮ったり、尾行したりする姿が写っていた。
「これはダンジョンから彼が過ごしている場所までの道の、
男の顔色が真っ青に変わっていく。
「明らかに彼らが仲間であり、行き過ぎた尾行行為、そして何よりも、彼らがホテルに入らないことを確認した上であの記事を作ったのが見て取れますね。これは名誉毀損だけでなく、虚偽により信用毀損にも当たります。その全てを立証できる証拠が揃ってますので、言い逃れはできませんよ? アバランチさん」
「そ、それは……そんなバカな…………こんなに速く証拠が揃うなんて……ありえないだろう……しかもこんなに正確に…………」
男の顔は青からより白く変わり、全身から全ての血の気が引いていった。
そこでようやく彼は自分がしたことの大きさを知る。
今までは相手が泣き寝入りしていて、ほとんど損をせずに巨額な報酬金を得ていた。
それが
だがしかし、彼により深い絶望は深いものに変わる。
「今回の一件で、貴方の記事を買った会社からも、貴方を詐欺罪として訴えるとしていますね。それもあって、貴方の財産は全て差し押さえになります」
「え……?」
「向こう側の弁護士からも面会の申請があったので、後日よく話し合ってください。まあ、色々難しいと思いますがね」
それからは流れ作業のように現状確認を淡々と進める。
全て事実だと自白した男。
だがこの時はまだ男には希望があった。
今まで多くの事実を捻じ曲げた記事で稼いだお金。それが通帳の中に入っている。いくら財産差し押さえがあっても、そこから色々支払えば何とかなるかもしれないと考えた。
裁判の日まで、彼は拘留という形で20日間牢の中で過ごした。
話し合いが進み、報酬としてもらった五百万円はそのまま返すこととなった。勇者側には自分の財産から半分である五百万で示談金を支払う話し合いになった。
だがその時のことだった。
男の弁護士が複雑な表情で面会にきた。
「アバランチさん。貴方の預金残高ですが…………十九円しか残っておりませんよ?」
「…………は?」
男は弁護士の言葉が理解できず、頭が真っ白に変わる。
「貴方が掴まる前日の夜に、十九円の除いた全ての額を――――寄付なさってますよね?」
「寄……付? ま、待ってくれ……いったい何を……言って……?」
「せめての誠心誠意を相手に見せれば示談も可能だったと思うんですが、まさかお金も一切ないとなると、示談も不可能です。相手側は大変怒っていますので……」
「待ってくれ! 俺は寄付なんてした覚えはないんだ!」
「……? いえ、たしかに貴方は夜に全額寄付なさってますよ?」
あの日。気持ちよくお酒をたくさん飲んだことまでは覚えている。だが、自分が寄付なんてするわけもなく、男は何が起きているのか理解できず頭を抱えた。
そして、一つの出来事を思い出した。
たった一日で防犯カメラの映像からあれだけ画像を探し、さらに自分の居場所まで突き止めて、警察までを動かす何者かを。
腐っても今まで裏の世界を跨いできた自分だ。間違うはずもない。これは――――決して開けてはならない――――パンドラの箱なんだと気付いた。
一度開けてしまえば、身を亡ぼすほどの絶望が降りしきるハンドラの箱。
気付いてからではすでに遅く、男は絶望の中、全てを失い絶望に陥った。
それから数年後。
彼は実刑判決により刑務所暮らしをしていたが、時折届く寄付による『
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