第47話 道場到着
「リサ。ここなのか?」
「そうだよ~ここは――――グランドマスターの道場。
グランドマスターから稽古を付けてもらえることとなって、一時期パーティーは休止になり、俺はリサのドローンとともにグランドマスターの道場にやってきた。
周りはどこを見ても山。前も後ろも左右も山だらけ。俺が立っているところも山頂であり、ここからは現実の文明は何一つ見えない。
「お兄ちゃん。疲れてない?」
「大丈夫。レベルが上がったからか楽だったよ」
山登りなんて人生初だったけど、意外と楽しかった。
だって、通りながら見える川や木々が波を打ち、そこに住んでいる魚や鳥、動物の息吹を実際に感じることができて嬉しかった。
ダンジョンが現れた日。両親と下の妹を失った日。
残された
結果から言えば、戦闘で役に立たない『追加固定ダメージ1』というスキルを開花して、パーティーに入ることもできず、学校内でも伊吹くん率いるイジメ集団に絡まれて、誰かと仲良くなる機会なんてなかった。
正直――――周りに視線を向ける余裕はなかった…………と思う。
病院から外に出られない妹もいて、俺だけ遊びに行くなんて考えられなかったし、行く気もなかった。
でもレナに出会えて探索者として成長することができて、咲や冬ちゃんという仲間ができて、妹も力を発揮して毎日が楽しそうにしているし、ドローンでどこでも自由に飛べるようになって、一緒に山に入って本当に楽しかった。
妹が心から楽しそうに笑う声をこうして独り占めするのはいつぶりだったかな。
パーティーメンバーたちには感謝してもしきれない。だからこそ……みんなの荷物にならないように、もっと強くなりたい。また暗黒獣が出たときにみんなを守れるように。
「いよいよだね。お兄ちゃん」
「ああ……!」
リサと一緒に道場の門を開いて潜った。
中は外から見てもわかるほどに広大な敷地が広がっている。入ってすぐに綺麗な石が敷かれていた。
そこに一人の男が仁王立ちしていた。
「待っていたぞおおお! お前がユウマか!」
「は、はい!」
俺よりも体が小さいのに、ものすごい大きな声が誰もいない広場に響いていく。
広場だけでも何千人は立てられそう…………昔、ちょっとだけみた少林寺映画に出てくるような広場だ。
「僕はあああ! 時津道場の第一席の
だあああ~! という言葉が広がって遠くまでやまびこしていく。
「ど、どうも。ユウマです。よろしくお願いします」
「うむ! これから僕が兄弟子になるので、お前の世話をしてやるぞ!」
「ありがとうございます!」
「では、施設を案内する! ついてこいっ!」
「はいっ!」
ガチョウ歩きのように肘膝を曲げずに真っすぐ腕と足を伸ばして歩く米良さん。行進してるような歩き方にクスっと笑いそうになるが、ぐっとこらえて後を追いかける。
イヤホンから聞こえるリサの笑い声に耐えるのも中々大変だった。
門から屋敷までも結構遠くて、歩いて数分はかかったが、その間もずっとガチョウ歩きを続けていた。
屋敷はどこか昔の日本の建物に似ていて、お寺に似ている。
中には爽やかな線香の匂いが優しく広がっていて、心がとても落ち着く。
そのときのことだった。
『すげぇ~! 道場広すぎ~!』
『なんか昔の建物にそっくりだな』
急に俺達の前にコメントが流れる。
「ぬわああっ!? な、なんだそれはあああ!」
大げさに驚く米良さんだが、俺も心臓が高く跳ね上がった。
そもそもダンジョン以外での配信は禁止されているというか、そもそも配信できないような仕組みになっている。
ドローンによるダンジョン配信は探索者ギルドが作ったシステムであり、特別なドローンも個人が所有できないし、操作できる人もいないとされている。たった一人を除いて。
「リサ? どうしてコメントが?」
「国の問題でいろいろあって、お兄ちゃんに定期的に配信してほしいって言われているの。だからダンジョン以外でも配信できるようになったんだ」
「女の子の声!?」
『丸坊主くんいて吹いたwww』
『ここが英雄殿の新しい家か~』
『家じゃねぇw道場だw』
しばらく配信はできないと思っていたら、まさかここでも配信ができるようになるとは……本当に驚いた。
それにしても国の問題ってところが気になるが、おそらく聞いても教えてはくれないと思う。最近リサは「お兄ちゃんのマネージメントは私に任せて! お兄ちゃんは安心してやりたいことしていいからっ!」と張り切ってくれているから。
「ユウマ!? これはいったいなんなんだ!?」
「あはは……すみません。
「は、配信!? ってことは僕も映ってるのか!?」
「え? ええ。そうですね」
「ひっ!?」
すぐに懐から
『坊主なのに!』
『おもれーwww』
うん……急に配信になって米良兄さんを巻き込んでしまって本当に申し訳ないなと思う。
「米良さん~急に配信始めてしまってごめんなさい」
「へ? また可愛い女の子の声が!?」
「あはは……俺の妹です。ドローンを操作してくれていて、ここからけっこう遠い場所にいるんですが、こうして俺をサポートしてくれています」
「ユウマくんは妹さんがいるんだな!?」
「え? は、はい」
そう答えると米良さんが後ろを向いて何かをブツブツとつぶやき始めた。
急な配信開始で流れるコメントのおかげで急に訓練から現実に引き戻された感覚があったが、ここに来るまで一週間は配信をしていないので、いろいろ事情があったのだろう。
こうして慌ただしい俺の訓練生活は――――幕を開けた。
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