第46話 それぞれの覚悟
「ユウマ……リサを頼むぞ……!」
「と、父さん!!」
――――
――――
「う、うわぁっ!?」
「ユウマくん!? 大丈夫?」
「うわああ!?」
目を覚ましたら目の前に天使のようなレナの心配そうな顔が見えた。
「すごくうなされてたよ? 大丈夫?」
「あ、ああ! だ、大丈夫!」
レナは小さく微笑んだ。
「それならよかった。疲れたらすぐに言ってね?」
「あ、ああ……」
最近見なくなったあの日の夢を見たな……。
昨晩は初めての飲み会で、俺は酒を飲んだことがなかったのと怖いのもあって飲んでいないが、場の雰囲気に酔ってしまった。
レナは慣れているようで探索者さんたちにお酒を注いであげたりして大人気だった。
それに反して冬ちゃんは、注いでいくのではなく、注いでくださいと探索者さんたちが集まった。
冬ちゃん…………段々女王様みたいになってない?
俺はずっと咲と一緒に動きながら、飲まない人たちで集まって談笑を楽しんだが、大半が女性だったのもあり、ちょっと居心地は辛かった。
ドローンではあるがリサが参加してくれて本当に助かった。
「あれ……? グランドマスター?」
アジトのリビングのお客様用ソファに珍しい顔がいた。
「英雄殿。おはようございます」
「おはようございます」
彼は優雅にコーヒーを飲む。
白髪と顔に刻まれたシワが、渋い雰囲気をかもしだして、とても似合う。
「ん~やっぱり冬が淹れるコーヒーは美味しいのぉ……」
「そういや冬ちゃんってグランドマスターの孫でしたね」
「自慢の孫ですな~」
嬉しそうに笑うグランドマスターは、孫大好きお爺さんそのものだ。
「こほん。今日は英雄殿に用事があってきました。少し時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「俺ですか? ええ。大丈夫です」
冬ちゃんが目的だと思ったら、意外と俺なんだ?
向かいに座ると、リサが紅茶を持ってきてくれた。
「さて、今日ここに来た理由ですが――――英雄殿。剣術には興味がないですかね?」
「剣……術?」
想像もしなかった質問にポカーンとしてしまった。
「ええ。みんなが魔界と呼んだ世界の配信を見ましたが、剣神殿や冬の動きを懸命に目で追って、動きにも反映させておりましたね?」
「え、ええ」
「力というのは獲得したスキルとレベルだけではありません。それらを適正に使えるかどうか。そのために武術というものが研究され、継がれてきました。英雄殿のスキルなら剣術を学ぶメリットは少ないのかなと思いましたが…………どうやら英雄殿本人が足りないと自覚している様子ですね」
グランドマスターの言うことが今なら理解できる。いや、昔からずっとそうだった。
探索者になった日から、強くなるにはどうしたらいいか調べたことがある。
そこには【レベルを上げろ】【強いスキルを獲得する】という情報しか書かれていなかった。
初心者はまず最弱魔物のスライムでレベルを上げるとされていたから、毎日スライムが生息するダンジョンに潜った。
レナのおかげもあって、ここまでたどり着いたけど、やはり自分の非力さを感じる毎日だ。
今の俺ができるのは、魔物の注意を引くことだけ。強い魔物が現れるとレナたちがいないと対応できなくなってしまう。守りたくても守れる力がない。だから強くなりたい。レナや冬ちゃんの動きを頑張って見て学んだ。
与えられるだけが全てじゃない。自分の足で先に進もうとするのが大事。あの日、自分に戦う才能がないと分かっていながらも、毎日ダンジョンに向かっていたように――――。
「グランドマスター……! 強くなれるなら何でもします! どうすれば強くなれるのか教えてください!」
「英雄殿が力を身に着けるのは人類にとって利になるでしょう。私がその手伝いができるならもちろん協力させてもらいます。ただし、一つだけ問題があります」
「問題……ですか?」
「ええ。英雄殿がどうして強くなりたいのか。強くなった先に何がしたいのか。未来の強くなった自分が何をしているのか、それらを聞かせてください。私も長年武術を受け継いできた身として、貴方の気持ちに安易にぶつかろうとは思いません。貴方自身の答えで私を納得させてください」
グランドマスターの鋭い視線が俺に向く。その奥からは今まで感じたこともない熱意が伝わってくる。いや、あの日、レナが俺に送ってくれていた熱意に似ている。
――――期待。
その眼差しはきっと、【期待】だ。
拳を握りしめる。
震える自分の体と心を、ダンジョンに入ると覚悟した自分と、レナに救われたあの日の自分を思い返す。
そして、俺はダンジョンに入っている理由と目的、自分の想いをグランドマスターに伝えた。
いや――――グランドマスターだけじゃない。妹のリサにも。メンバーであるレナにも咲にも冬ちゃんにも、しっかり自分が思っていることを伝えた。
◆
アジトの屋上。
レナと咲と冬が遠くを見つめていた。
おもむろに咲が口を開いた。
「ユウマくん……すごかったね……」
「うん」「はい」
「私がダンジョンに入る理由なんて、ユウマくんに比べたら大したことないな……」
「そんなことないと思うよ? 咲ちゃんの理由だって立派だと思う。ううん。大事だと思う」
「そうですよ、咲先輩。そんなこと言ったら、私が一番何もないですかね~」
「冬ちゃんは生まれながら武家だからって言ってたよね……」
「そうですね。ダンジョンがあってもなくても、私は――――でも、後悔はしてないし、腐ってもないです。自分の人生、そんな悪いものだとは思いませんから」
「冬ちゃんって本当に強いね。私も頑張ろう……!」
「咲先輩? 収入は間に合ってますか?」
「うん! おかげさまで多いくらいだよ。ユウマくんに会うまでには想像もできない額だから、両親とおばあちゃんの仕送りなんて楽々の楽よ~弟たちの大学費用だって順調に貯まってる!」
「それはよかった。でもちゃんと咲先輩のためにも使ってくださいよ? 一番頑張ってるのは咲先輩ですから」
「あはは……うん。それはそうと、ユウマくんがしばらく剣術を学びに行ってる間、私たちはどうする?」
ユウマが剣術を学びにグランドマスターの道場に通うことになり、そのために数か月のパーティー休止になった。
三人はその間の相談のために集まっていた。
「先輩がいないと色々大変ですからね……」
「あのね――――」
遠くを眺めていたレナが重い口を開いた。
「私も…………強くなってくる」
「レナ先輩……」
「ユウマくんの覚悟を聞いて、私の覚悟がまだ甘かったと知ったよ。私もちゃんと――――向き合わないと」
「先輩? 無理はしちゃだめですからね?」
「ありがとう。冬ちゃん。でも大丈夫。ちゃんと向き合えるから」
三人はお互いの手を取り、それぞれ自分たちの目的のために進むことを決意した。
翌日。
ユウマは剣術を学ぶためにグランドマスターの下へ。
レナは刀術を磨くために実家へ。
咲と冬はとある人のところに向かった。
そして、残されたリサもまた自分の力をより確かなものにするために、アジトに残りながらみんなをサポートする。
パーティーメンバーはそれぞれの想いを胸に、次のステップに進む。
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